*原田真宏単独
**原田麻魚単独
*原田真宏単独
**原田麻魚単独
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
株式会社マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所
東京都知事登録 第55566号
>事業詳細
事業内容
1 建築の企画・設計・監理
商業施設(店鋪・レストラン・オフィス・ホテル)
住宅(個人住宅・別荘・集合住宅)
文化施設(美術館・ホール・武道場)
教育施設(各種学校・幼稚園)
福祉施設(病院・老人ホーム・保育所)
生産施設(工場・倉庫・太陽光発電施設)
2 環境の企画・計画
公園緑地計画設計(公園・広場・プロムナード)
通学路のデザイン
3 地域の調査・計画
都市計画(総合計画・基本構想・基本計画)
農山漁村振興計画
災害復興施設 (避難塔・防災センター)
4 インテリアの企画・設計・監理
5 家具のデザイン
6 建築に関する出版業務
7 前各項に付帯する一切の業務
Address: 〒151-0053 東京都渋谷区代々木5-59-5 清水代々木ビル
2F
Tel:03 5738 1800
Fax:03 5738 1801
Mail:
info@fuji-studio.jp
Web: http://www.fuji-studio.jp
どんな建築のご相談もお受けしております。
業務の流れ
1.現地調査・基本構想
ヒアリング→敷地・法規調査→プレゼンテーション
ご要望をお聞きし、法的な規制や周辺状況等の事前調査の上、どのようなものを創るか提案をさせて頂きます。
それに基づいて計画の方向性の検討、協議をしていきます。
2.設計監理契約~基本設計
設計監理業務委託→現場調査・基本プランの検討
設計監理契約を致します。
この時点で正式に設計依頼をされたことになります。
契約後は、基本構想をもとに基本設計に入ります。
何回も打ち合わせを行い検討を重ねて納得のいくまで基本設計を練ります。
建築及びインテリアのプラン・デザイン・イメージ・色・素材等この段階で十分に時間をかけて検討します。
また、工事費の概算を算出し、予算に応じて基本設計を仕上げていきます。
3.実施設計及び確認申請
詳細プランの検討・役所事前協議・確認申請→実施設計図書の作成
基本設計をもとに工事の発注ができる図面を作成します。
必要に応じて設備・構造図面等も作成します。
実施設計業務と並行して確認申請書類等諸官庁への必要書類の作成、提出を行ないます。
この作業は弊社が、建主の代理として行ないます。
4.施工業者選定~見積り調整
施工業者に見積りを依頼→見積調整→工事請負契約
実施設計図書をもとに施工会社(通常3~4社)に見積りを依頼します。
見積り金額・技術・施工能力を専門家として総合的に判断し、施工業者選定の助言をいたします。
この後、細かい工事費の調整等を行います。
工事請負契約は建主と施工業者の間で交わされます。
私たち建築家は監理者として立ち会いを致します。
5.着工~竣工
工事着工→工事監理→建物の完成・引渡し
工事着工後、私たち建築家は、建主の代理として、図面どおりに工事が行なわれているかを検査・監理し、最終的な材料の見極め等を行ないます。
工事完了時に建主、建築家、施工者の立ち会いのもと最終チェックを行い、引き渡しとなります。
設計監理料について
設計監理料は、ご予算の8~18%とお考えください。*
規模や用途などによりパーセンテージが変わりますので、ご相談の上、決定いたします。
*構造設計者に支払う構造設計料は別途とします。(2%)
設備設計料は別途とします。
(工事規模や内容によりますので、ご相談ください。)
支払時期と割合の参考(状況によりご相談に応じます)
・基本構想業務報酬支払(契約時):
設計監理料の25%
・基本設計業務報酬支払(基本設計終了時):
設計監理料の25%
・実施設計業務報酬支払(実施設計・建築確認申請終了時):
設計監理料の25%
・工事監理業務報酬支払.1(上棟時):
設計監理料の12.5%
・工事監理業務報酬支払.2(建物引渡時):
設計監理料の12.5% ±確定設計料との差額調整金額
【建築設計スタッフ、シニアスタッフ 及び 秘書・広報
募集】
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOは業務拡張のため、
「スタッフ」「シニアスタッフ」「秘書・広報」「アルバイト」「インターン」を募集します。
公共施設、商業施設、住宅や別荘、集合住宅やホテル等々を主として、時には街づくりから、プロダクトデザインまで、
建築設計を中心とした多様なデザイン活動を行っています。
空間・計画的な視点に加えて、
構造や構法・素材といった構築的な側面から建築・都市・環境を捉えていく特徴があります。
より良き建築への探究心はもちろん、様々な新しいことにチャレンジをしたい積極的な方を求めます。
建築は世界を、具体的に、良く変えていくことができる心躍る活動です。
真剣で前向きな、仲間を求めます。
スタッフ希望の方:
[応募資格]建築系の学士/学部課程以上を今春卒業/修了予定、または既卒の方。
[募集業種及び採用人数]新卒・既卒、若干名
[試用期間]3ヶ月程度(有給)
[給与]
初任給 20~25万円(経験・能力に応じて)(賞与年1回)
昇給:年1回、および昇格時
※交通費支給
[採用時期]
新卒:2023年4月〜
既卒:随時
[提出書類]履歴書、ポートフォリオ(返送用封筒同封)を下記住所へ郵送にて提出
シニアスタッフ希望の方:
[応募資格]設計・監理実務の経験者でPM(プロジェクトマネージャ)のできる方。
[募集業種及び採用人数]プロジェクトマネージャーのできる実務経験者、若干名
[試用期間]3ヶ月程度(有給)
[給与]
初任給 25~40万円(経験・能力に応じて)(賞与年1回)
昇給:年1回、および昇格時
※交通費支給
[採用時期]
随時
[提出書類]履歴書、ポートフォリオ(返送用封筒同封)を下記住所へ郵送にて提出
秘書・広報希望の方:
[応募資格]海外メディア等とのコミュニケーションができる方。設計業務との兼務可。
[募集業種及び採用人数]秘書業務、及び、国内外のメディア対応、1名
[試用期間]3ヶ月程度(有給)
[給与]
初任給 20~25万円(経験・能力に応じて)(賞与年1回)
昇給:年1回、および昇格時
※交通費支給
[採用時期]
新卒:2023年4月〜
既卒:随時
[提出書類]履歴書を下記住所へ郵送にて提出
アルバイト希望の方:
希望される方は下記メールアドレスへPDF形式の履歴書・簡易なポートフォリオを添付してご送付ください。
郵送にてポートフォリオを送付される場合は、切手と宛先を記入した返送用封筒を同封し、下記住所宛にご送付ください。
[給与]
時給:1200円〜(経験・能力に応じて)
※交通費支給(上限1日1000円)
インターン希望の方:
MOUNT FUJI ARCHITECTS
STUDIOではインターンを受け入れています。
希望される方は下記メールアドレスへPDF形式の履歴書・簡易なポートフォリオを添付してご送付ください。
郵送にてポートフォリオを送付される場合は、切手と宛先を記入した返送用封筒を同封し、下記住所宛にご送付ください。
※面接をお願いする方のみメールにてご連絡を差し上げます。
※詳細は、面接時にご説明いたします。
※応募者の個人情報を採用業務以外に使用することはありません。
※採用に関するお問い合わせは、電話にて承ります。
【提出先】
〒151-0053 東京都渋谷区代々木5-59-5清水代々木ビル2階
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO 人事担当
tel: 03-5738-1800
mail: info@fuji-studio.jp
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
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事業内容
1 建築の企画・設計・監理
商業施設(店鋪・レストラン・オフィス・ホテル)
住宅(個人住宅・別荘・集合住宅)
文化施設(美術館・ホール・武道場)
教育施設(各種学校・幼稚園)
福祉施設(病院・老人ホーム・保育所)
生産施設(工場・倉庫・太陽光発電施設)
2 環境の企画・計画
公園緑地計画設計(公園・広場・プロムナード)
通学路のデザイン
3 地域の調査・計画
都市計画(総合計画・基本構想・基本計画)
農山漁村振興計画
災害復興施設 (避難塔・防災センター)
4 インテリアの企画・設計・監理
5 家具のデザイン
6 建築に関する出版業務
7 前各項に付帯する一切の業務
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2F
Tel:03 5738 1800
Fax:03 5738 1801
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どんな建築のご相談もお受けしております。
業務の流れ
1.現地調査・基本構想
ヒアリング→敷地・法規調査→プレゼンテーション
ご要望をお聞きし、法的な規制や周辺状況等の事前調査の上、どのようなものを創るか提案をさせて頂きます。
それに基づいて計画の方向性の検討、協議をしていきます。
2.設計監理契約~基本設計
設計監理業務委託→現場調査・基本プランの検討
設計監理契約を致します。
この時点で正式に設計依頼をされたことになります。
契約後は、基本構想をもとに基本設計に入ります。
何回も打ち合わせを行い検討を重ねて納得のいくまで基本設計を練ります。
建築及びインテリアのプラン・デザイン・イメージ・色・素材等この段階で十分に時間をかけて検討します。
また、工事費の概算を算出し、予算に応じて基本設計を仕上げていきます。
3.実施設計及び確認申請
詳細プランの検討・役所事前協議・確認申請→実施設計図書の作成
基本設計をもとに工事の発注ができる図面を作成します。
必要に応じて設備・構造図面等も作成します。
実施設計業務と並行して確認申請書類等諸官庁への必要書類の作成、提出を行ないます。
この作業は弊社が、建主の代理として行ないます。
4.施工業者選定~見積り調整
施工業者に見積りを依頼→見積調整→工事請負契約
実施設計図書をもとに施工会社(通常3~4社)に見積りを依頼します。
見積り金額・技術・施工能力を専門家として総合的に判断し、施工業者選定の助言をいたします。
この後、細かい工事費の調整等を行います。
工事請負契約は建主と施工業者の間で交わされます。
私たち建築家は監理者として立ち会いを致します。
5.着工~竣工
工事着工→工事監理→建物の完成・引渡し
工事着工後、私たち建築家は、建主の代理として、図面どおりに工事が行なわれているかを検査・監理し、最終的な材料の見極め等を行ないます。
工事完了時に建主、建築家、施工者の立ち会いのもと最終チェックを行い、引き渡しとなります。
設計監理料について
設計監理料は、ご予算の8~18%とお考えください。*
規模や用途などによりパーセンテージが変わりますので、ご相談の上、決定いたします。
*構造設計者に支払う構造設計料は別途とします。(2%)
設備設計料は別途とします。
(工事規模や内容によりますので、ご相談ください。)
支払時期と割合の参考(状況によりご相談に応じます)
・基本構想業務報酬支払(契約時):
設計監理料の25%
・基本設計業務報酬支払(基本設計終了時):
設計監理料の25%
・実施設計業務報酬支払(実施設計・建築確認申請終了時):
設計監理料の25%
・工事監理業務報酬支払.1(上棟時):
設計監理料の12.5%
・工事監理業務報酬支払.2(建物引渡時):
設計監理料の12.5% ±確定設計料との差額調整金額
【建築設計スタッフ、シニアスタッフ 及び 秘書・広報
募集】
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「スタッフ」「シニアスタッフ」「秘書・広報」「アルバイト」「インターン」を募集します。
公共施設、商業施設、住宅や別荘、集合住宅やホテル等々を主として、時には街づくりから、プロダクトデザインまで、
建築設計を中心とした多様なデザイン活動を行っています。
空間・計画的な視点に加えて、
構造や構法・素材といった構築的な側面から建築・都市・環境を捉えていく特徴があります。
より良き建築への探究心はもちろん、様々な新しいことにチャレンジをしたい積極的な方を求めます。
建築は世界を、具体的に、良く変えていくことができる心躍る活動です。
真剣で前向きな、仲間を求めます。
スタッフ希望の方:
[応募資格]建築系の学士/学部課程以上を今春卒業/修了予定、または既卒の方。
[募集業種及び採用人数]新卒・既卒、若干名
[試用期間]3ヶ月程度(有給)
[給与]
初任給 20~25万円(経験・能力に応じて)(賞与年1回)
昇給:年1回、および昇格時
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[採用時期]
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[提出書類]履歴書、ポートフォリオ(返送用封筒同封)を下記住所へ郵送にて提出
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[募集業種及び採用人数]プロジェクトマネージャーのできる実務経験者、若干名
[試用期間]3ヶ月程度(有給)
[給与]
初任給 25~40万円(経験・能力に応じて)(賞与年1回)
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※交通費支給
[採用時期]
随時
[提出書類]履歴書、ポートフォリオ(返送用封筒同封)を下記住所へ郵送にて提出
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[応募資格]海外メディア等とのコミュニケーションができる方。設計業務との兼務可。
[募集業種及び採用人数]秘書業務、及び、国内外のメディア対応、1名
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新卒:2023年4月〜
既卒:随時
[提出書類]履歴書を下記住所へ郵送にて提出
アルバイト希望の方:
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郵送にてポートフォリオを送付される場合は、切手と宛先を記入した返送用封筒を同封し、下記住所宛にご送付ください。
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STUDIOではインターンを受け入れています。
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郵送にてポートフォリオを送付される場合は、切手と宛先を記入した返送用封筒を同封し、下記住所宛にご送付ください。
※面接をお願いする方のみメールにてご連絡を差し上げます。
※詳細は、面接時にご説明いたします。
※応募者の個人情報を採用業務以外に使用することはありません。
※採用に関するお問い合わせは、電話にて承ります。
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ドミノから、次のシステムへ
空間的にも時間的にも、アウトラインのない建築のシステムはできないだろうか、と考えてきた。
もちろん私たちにはドミノ・システムという、どこまでも拡張可能で、産業構造を含めて広く普及した思考と構造の方法があるのだが、あの自由と言いながらもグリッドモデュールという絶対的な基本単位が存在していることには、人間を均質的に捉える思考がその基礎に据えられているようで、カタにはめられる気持ちの悪さというのか、違和感を消し去れないでいる。
アウトラインを持たず、グリッドモデュールからも自由な空間的・構築的なドミノに代わるシステムはないものか。そのヒントになったのは、このSTROOG社の代表の自邸である「立山の家」と、その展開である「LIAMFUJI」になる。この2つの仕事は、共に壁面を一枚で形成するほどの大断面集成材で作られていて、その巨大な壁=梁による十分な曲げ応力と、これも十分なスタンス幅による鉛直方向に剛な接合によって、上下層で構造がグリッド状の「通り芯」から自由になり、その結果、空間もまた断面的に新たな関係で接続されることになった。これらの時点では、平面的にはグリッドが踏襲され、空間システムも完結していたので、これをほぐし、時間的・空間的にアウトラインのないシステムへと向かうことを考えた。
STROOG本社でとったのは、長さはまちまちの幅3000mmのCLT原板を複数用意し、これに任意に切り込みを入れ、井桁状にノックダウンするように組み上げる方法である。CLTは直交積層合板という和名の通り直交する2軸に強軸を持つため、どの部位も鉛直に抵抗する柱と水平に抵抗する梁の性質を両有し、なおかつ無垢材であるので切り込み位置はミリ単位で自由になる。これと切り込みの噛み合い深さがそのまま接合スタンスとなってラーメンが成立する構造的合理性と合わせて、立体的にグリッドモデュールに束縛されないシステムが成立する。またアウトラインは完結せずに、ほつれるように空間的・時間的な余地へと解放されているので、生命体のように場面場面で必要性や環境の変化に適合しながら、どこまでも成長していくことも可能になる。
そして生み出された建築的空間は、これを現実化したCLTのラミナと同じように、方向性のある空間が直交するように組み上げられ、そのように異方に積層する空間群を、斜めに抜ける関係性が縫い合わせるといった、全く新しい空間性が生まれている。この均質ではない空間の関係性と、CLTの質量の周囲に生まれるアトモスフィアとが重なることで生まれる場所性は、ドミノシステムの持つ均質さとは全く異なる質のものになった。
新しい木材が生む、新しいシステムである。それは、ドミノの普遍性は引き継ぎながらも、より多様な、人の居場所を生み出していく生命的なシステムとなったのではないかと考えている。(原田真宏)
ー
「新建築」2023年1月/新建築社
data:
主要用途:事務所
敷地面積:905.04m2
建築面積:494.02m2
延床面積:499.64m2
階数:地上2階
構造:木造(CLT造)
設計期間:2019年11月~2020年12月
工事期間:2021年6月~2022年12月
principal use:office
site area:905.04m2
building area:494.02m2
total floor area:499.64m2
number of stories:2 story
structure:timber(CLT)
design:2019.11 - 2020.12
construction:2021.6 - 2022.12
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
鉄の森
大阪府枚方市を敷地としたROVALの新社屋兼発送センターの計画。同社は常温亜鉛めっき塗料の国内最大手メーカーであり、社屋はその製品性能の実証実験を兼ねるため、鉄を主体構造とすることが求められた。効率的な管理のため発送センターとオフィスは同じ空間の中に併置されることになったが、発送センター向けの大スパンを基準として、一般流通規格の重量鉄骨型鋼によって従来型の格子状の架構を設定すると、人間のスケールと構造のそれとがどうにも合致せず「社員の方々が日々を過ごす就労時間を豊かなものとしたい」という社長の思いに応えられるようには思えなかった。そもそも一言でオフィスと言っても、そこでの行為の質も様々であり、それらに随意にフィットしようと思うと格子状構造の一律さはもとより、型鋼の規格の割り付けも段階が荒すぎるようだ。
そこで発送センターとしての大モジュールから、細々と設定すべきオフィスのモジュールまで、スケーラブルなモジュールを可能にする構築/構成のシステムを求めることにした。
それは型鋼ではなく、スチールプレート(St-Pl:鋼板)を用いたものだ。St-Pl:16mmをレシプロカルに組み合わせた単位を基本とするが、そのサイズ・縦横(X
/Y)比は、オフィスのアクティビティや発送センターの空間の必要性に応じて様々に変化し、それにつれて高さ(Z)もまた力学的に応答して変わることで、場所性にさらに多様さを加えている。各プレートは両端をピンとなる接合として単純梁とし、プレート上辺は直行する角パイプ列(150×150×4.5@600)で拘束されることでcut-T的に適当な構造として機能する。また柱は基礎と一体となったRC造片持ち形式で、レシプロカル単位の中心に生じる四角形で掴まれ架構と接合されるが、時にレシプロ中心の四角形は柱型より大きく、その隙間は熱抜きを兼ねたトップライトとなって自然光を取り込んでいる。
STROOG本社に続いて、モジュールフリーでオープンエンドな新しい架構システムの探求である。求める空間の質の多様さに始まり、それに応じて架構が変化し更に場所性が揺らぐその有様は、ところどころに落ちる木漏れ日のような光や、それぞれ幹から差し伸ばされた枝のような梁の形態的な効果と相まって、“鉄の森”のようにも映る。自然の森と同様に、この無機質な森もまた、人々にどこに居てどう使うか、つまり主体的な解釈を促し続けることになるのだろう。
ー
「新建築」2023年5月/新建築社
data:
主要用途:事務所、研究所、倉庫
敷地面積:5746.91m2
建築面積:1182.01m2
延床面積:1639.67m2
階数:地上2階 塔屋1階
構造:RC造+一部鉄骨造
設計期間:2018年12月~2021年6月
工事期間:2021年6月~2023年1月
principal use:office, laboratory, warehouse
site area:5746.91m2
building area:1015.37m2
total floor area:1182.01m2
number of stories:2 story
structure:reinforced concrete, steel
design:2018.12 - 2021.6
construction:2021.6 - 2023.1
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
data:
主要用途:試験棟
敷地面積:563.52m2
建築面積:237.07m2
延床面積:449.69m2
階数:地上1階
構造:木造(CLT造)
設計期間:2020年6月~2020年12月
工事期間:2021年6月~2022年12月
principal use:laboratory
site area:563.52m2
building area:237.07m2
total floor area:449.69m2
number of stories:1 story
structure:timber(CLT)
design:2020.6 - 2020.12
construction:2021.6 - 2022.12
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
南に寄せ、北へ開く
千駄ヶ谷の鳩森神社近く、アパレル系のアトリエや問屋に小さな事務所群、それらの合間に住居が程よく混在するエリアに敷地はある。
施主家族は代々ここで生まれ育ち、もう亡くなられた祖母は著名なピアニストで、その娘である母親と一緒に町の子供たちにピアノを教えながら暮らしていた。この祖母や母親に限らず、職住が一体、もしくは近接してある暮らしぶりが、この地域特有の魅力になっているようだった。
ここに最上階を施主の住居兼ピアノ教室、最下階をテナント、その間の2層を賃貸住宅とする計画を依頼された時、上述のような町と繋がった住と職のあり方を引き継げないかと考えた。
今回のような東西に長く南北に狭い敷地形状に集合住宅を計画する場合、東西を長軸とする建築ボリュームを北側に寄せ、南を採光用の庭とし、反対の北側長辺を片廊下とするのが定石だ。しかしそうすると、そもそも薄暗い片廊下には、採光のない北側へと押しやられた水回りユニットが並び、およそ人の居場所ではなくなってしまう。このいわば「人気(ひとけ)の真空地帯」が、町と集合住宅の関係を完全に断ち切ってしまっているのである。
そこで今回は定石を反転して建築を南側に寄せ、その南側をアプローチ、逆の北側を街に開いた緑地とする配置計画とした。ボリュームはバスケットのフェイドアウェイシュートのように後ろ斜め上空へと仰反ることで北庭に光を届け、居住者は通常のように隣棟の暗い北壁面ではなく、直達光のない北面性を生かしたパノラミックな大開口から、明るい緑の木立を眺めて暮らすことになる。反対側のアプローチは、一本階段として町に直に接続する明るい街路のような空間となり、各賃貸住戸の南東・南西の角部屋(これらの角部屋は、敷地割の状況から南に寄っても明るい)に公共的な性格を与えている。実際にここは、小さな商業やアトリエ、SOHO等として使用されており、この地域らしい町と接続した職住のありかたが継承されている。
できあがった建築はクルミビルと名付けられた。RC洗い出しの柔らかな質感とコロンとした佇まいともよく似合う名だけれど、木の実を介して人と親密な関係をもつクルミの樹と、ちいさな職を介して町と親密に関係するこの集合住宅の、何かほのかな繋がりを示しているような気もして、少し嬉しく思っている。(原田真宏)
ー
「新建築」2022年8月/新建築社
data:
主要用途:共同住宅
敷地面積:242.24m2
建築面積:156.04m2
延床面積:495.21m2
階数:地上4階
構造:壁式鉄筋コンクリート造
設計期間:2019年6月~2020年10月
工事期間:2020年11月~2021年11月
principal use:Housing Complex
site area:242.24m2
building area:156.04m2
total floor area:495.21m2
number of stories:4 stories
structure:Wall type reinforced concrete structure partly
steel structure
design:2019.6 - 2020.10
construction:2020.11 - 2021.11
photo credit:
Koji Fujii / 藤井 浩司
一、二、三
大洋を南に見晴らす斜面状の住宅地。その海岸側最前列に敷地はある。水平線へと広がる風景はもちろん、南からの海風と大気に満ちているような自然光は既に心地よく、求められた週末住居の環境としては十分で、むしろ余計な建築的操作はそれを濁らせてしまう気さえした。
では、最小限の建築的操作とは何か。天地開闢ではないけれど自然環境は線を引かれ分割されることで、意味が定まり人の世界=空間に変わる。この環境に線を引き分割するという根源的な操作を無数に繰り返すことで、日々、私たちは空間を設計しているのだろう。そこで建築の根本にまで立ち返るように、海というひとつの環境(一)を、ふたつに分け(二up/二down)、そして、更に3つに分割する(三up/三mid/三down)という操作のみに、設計過程を還元することにした。
まずふたつに分けた時、環境は分化し空間に転じ、更に3つに分けたことでその意味が複層化した。それはそのまま場所性の違いとして、たとえば「リビング越しにビーチまで見下ろすワークスペース(一↔︎二up↔︎三up)」や「リビング足元を介して水平線を眺める暗がりのキッチン(一↔︎二up↔︎三mid)」、「ゲストルームを通して庭へ抜けるエントランス(一↔︎二down↔︎三down)」などとして様々に現象している。それは空間同士の多様な関係であると同時に、海という原自然との距離や奥性のバリエーション、つまり場所性のトーンである。
これらの空間の関係は視線や導線だけでなく、風や光によっても繋がれる。二と三の空間の合間には、分割を構造的に接続する階段室が配されるが、構造体であるRC部分以外はストライプ状の木製とすることで、風と光の通り道として機能している。特に風は、南面する開口から入り階段室を昇って重力換気によってハイサイド窓、あるいは北側「三up」の段違い窓の開口方建部から抜け、海からの爽やかな空気を室内全体に届けている。
さて、操作はこのように最小限としたが、それを表現の目的にする気にはならなかった。海辺の緩い気分に「無」であろうとする強い意志(たとえばミニマリズムの)は似合わないからだ。一、二、三というごく単純な分割は、海という自然から人の空間へとつながる穏やかなトーンとなって、しずかに居場所を生み出してくれればいいと思っている。
ー
「住宅特集」2022年9月/新建築社
data:
主要用途:週末住宅
敷地面積:329.38m2
建築面積:130.62m2
延床面積:280.84m2
階数:地上3階
構造:RC造+一部鉄骨造
設計期間:2019年9月~2021年1月
工事期間:2021年2月~2022年4月
principal use:weekend house
site area:329.38m2
building area:130.62m2
total floor area:280.84m2
number of stories:2 story
structure:reinforced concrete, steel
design:2019.9 - 2021.1
construction:2021.2 - 2022.4
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
日本海に浮かぶ隠岐島。
太古からの地形や生態系が保存された独特な景観で知られており、2015年には、ユネスコ世界ジオパークに登録されている。
ここを訪れる方々のホテルとして、海士町が主体となってこの「Entô」は計画された。町は島全体をホテルと見なす「“島を繁盛させる”海士町観光基本計画」を策定していて、その実行という位置付けである。この構想は、島全域が観光資源であることはもちろん、ホテル運営全般に町民皆が直接・間接に関わることで島の産業の復興や関係人口の増加を図る地方活性化計画であり、「Entô」はその象徴であり実現を担う存在となる。
島を訪れ、まず見るべきものはその独特な自然の景観である。
都市部のホテルであれば土地利用効率から「間口/奥行き」は「狭く/深く」なるものだが、この計画では逆にそれを徹底的に「広く/浅く」反転させ、長い間口側は全て開口部としている。その結果、室内環境に占める自然景観の割合は極限まで高まり、宿泊者はジオパークそのものに抱かれているかのような宿泊経験を得ることになる。また、この客室空間の「浅さ」は、海士町という離島ならではの「人間味のある島民の日常」との距離の近さを生み出してもいる。外廊下形式で、レセプションを介さずに外部と直接行き来できる部屋と町の関係は、ホテルというよりもコテージや民泊に近いのかもしれない。島全体をホテルと見做すコンセプト通り、維持やアクティビティなど各種のサービスの多くはホテルの枠組みを越えて島の方々によって直に行われるが、ここでの交流を含め、「ホテル暮らし」ではない「数日の島暮らし」は他所では得難い印象を残すことだろう。
ここまでは空間フェイズの話だ。これを現実のものとするためには、「離島」という特殊な状況への「構築」面でのストーリーも考える必要がある。
隠岐島の中でも海士町の位置する島前エリアは人口1万人を割り込むほどで、当然ながら、ホテルを実現できるほどの建設産業は存在しない。現地での作業を最小化し、本土でほとんどの作業が終わってしまうような、そしてジオパークに相応しい親自然的な新しいプレファブのシステムが求められた。
提案したのは、大版のCLTを用意し、これを本土において仕口・継手に留まらず、サッシや設備スリットまでコンピュータ連動の加工機によって、3Dモデル通り細密にプレカットしておくシステムである*。大版のCLTは構造・界壁・断熱・仕上げまでを兼ねてしまう複合材なので、島ではこれをプラモデルのように組み立てるだけで、ほとんど完成してしまうことになり、島での建設力は短期・少量の投入で済む。福井のCLT加工場〜海士町の現場〜東京の意匠・構造事務所と、モノと人はほとんど移動せず、ネットを介しての加工データのやり取りで工程は管理されたが、この実質的な「リモート構法」であることは「離島」という地理的制約をキャンセルするにも有効であり、covid-19による移動制限下となっても工事進行への影響を最小限に抑えることにも貢献した。これらの省工程・省移動によるLCCO2削減やマスティンバーによるカーボンストレージ効果も、ジオパークの思想に共鳴するものであることは、改めて言うまでもない。
(*この新しいプレファブシステムはかつての化学建材系のそれとは異なり、地元大工や木工系職種の参画も可能なので、
少ないながらも存続してきた地元の生業の保全にも貢献し、将来のメンテナンスを可能にもしている)
「Entô」という名称は、日本海にポツンと浮かぶ情景を思い浮かべて決められた。
360°の自然にぐるりと囲まれてあるということは、社会力の保護の中にある都市生活とは異なって、飾りない自然との応答がある。それは厳しくもあるが、充足した存在の喜びともなるだろう。
そんな、自然世界と自身の応答に耳を澄まし、存在を確かめられるような直截なホテルになれば、と考えている。(原田真宏)
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「新建築」2021年9月/新建築社
data:
主要用途:ホテル+ユネスコ世界ジオパーク拠点施設
敷地面積:5666.21m2
建築面積:781.38m2
延床面積:1639.67m2
階数:地上2階 地下1階
構造:木造(CLTパネル構法)+一部RC造
設計期間:2018年5月~2020年3月
工事期間:2020年3月~2021年5月
principal use:hotel + UNESCO Global Geopark facility
site area:5666.21m2
building area:781.38m2
total floor area:1639.67m2
number of stories:2 story 1 basement
structure:timber (CLT), partly reinforced concrete
design:2018.5 - 2020.3
construction:2020.3 - 2021.5
photo credit:
Ken’ichi Suzuki / 鈴木 研一
完成しない都市の始まりをつくる
流山おおたかの森駅周辺はとても若い街だ。
今世紀に入ってから開発が本格化し、それ以前は延々と続く平坦地に田畑が広がるだけであったという。今もそのお陰だろうか、駅名の示す通り、時には絶滅危惧種のオオタカが飛来するような豊かな自然が都市に重なった、魅力ある生活環境を作り出している。その都市開発の駅東側最後の1区画が今回の敷地であり、これで一応の「都市の完成」を見ることになる。
しかし逆に、ここで考えたことは「いかに都市を完成させないか」ということだった。戦後以降の様々な新規の都市開発を見聞きし、その結果を体験してきた者として、従来の静的な「理想形としてのマスタープラン」の「完成」を目指すという開発手法をそのまま信じるのは難しい。もっと言えば都市を、完成を前提に捉えるのではない、もっと動的で、時間的にも空間的にも開いた状態として構想する方が適切ではないのだろうか、と思うところがあった。そのような視点から既存の街を見たとき、事業主であるディベロッパーがその最初期から主導的に開発に関わりつつも、他の業者の参画を排除せずに、複合的かつ段階的に整備されてきた駅周辺の、良い意味で統一性の希薄な状況はポジティブな可能性として感じられた。その特徴を活かして私たちが「完成」すべきは、むしろ「完成しない都市の始まりの状態」であると考えたのである。
“丘”であり、同時に、“すり鉢”であるように
既存の周辺環境を眺めてみると、駅前広場を中心に、二つの駅舎とそれに対面する大規模ショッピングセンター、それらに掛け渡された空中歩廊、といった諸要素が形態的な統合性もなく、それぞれの顔をしてバラバラと配されていた。この個々の要素の自律性という既存都市の特性を肯定しながら、そして群としても機能する様に、新しい建築の性質を決定することにしたのである。
それは建築単体としては凸型の「丘」として、広場を含んだ周辺施設との都市的な群としては凹型の「すり鉢」地形となるように造形するというものである。建築計画学では平面的に内を向き合うカーブした配置をソシオペタルと呼び「集中」の効果を生むとされ、逆に外側を向く配置をソシオフーガルと呼び「解放」性を生み出すとされるが、それは都市計画にも適用できる。魅力ある都市には周囲を囲い込まれた“すり鉢”的な集約感のある広場が常にあり、かつ都市全体を見晴らす“丘”もまた同時に存在するもので、これらは平面的なソシオペタル/フーガルに1次元を加え立体化した様なものだ。
重なりあう都市
今回、固定的なマスタープランに代えて、将来にわたって都市の成立を保証する計画手法として、そんな「丘/すり鉢」という基礎構造を新たに導入したのだが、それは個々の都市要素の自律性を上から圧するものではなく、あくまで「重なり合う状態」で共存している。具体的には、建築は北/東側で半分ずつ食い込み合った「丘」=ひな壇状の幾何ボリュームとして自律させつつ、同時に新設した円弧状の木質空中回廊や周辺施設と合わせて、駅前広場を底とした「すり鉢」地形ともなって都市的な集中を生み出すように構成している。商業施設としてはトレッキングルートのような縦動線を外周にまとうことで人々の往来を外部化し、賑わいを都市に表出しながら、行き止まりのない立体的な回遊導線を生み出し、周辺施設も含めた立体都市を成立させてもいる。
丘の頂上にある屋上広場まで登ると街の現在が見晴らせるが、若い都市生活者たちが思い思いに新しい街を自分の居場所として活用し始めている様子が見てとれる。都市環境にオオタカの棲む自然が重なってある様に、全体の計画と個々の営為は上/下のヒエラルキーもなく重なることで、多様な人々の主体的な参画が促されているのである。ちょっと散らかったリビングルームのような多層的で動的な状態を「都市の始まり」として肯定し、デザインで明示することで、活力溢れる都市が自走していくよう意図したのである。(原田真宏)
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「新建築」2021年5月/新建築社
data:
主要用途:商業施設・空中歩廊・都市広場
敷地面積:2919.83m2
建築面積:2454.71m2
延床面積:11297.18m2
階数:地上6階 塔屋1階
構造:鉄骨造
設計期間:2018年7月~2020年1月
工事期間:2020年1月~2021年3月
principal use:commercial facility, pedestrian deck, city
square
site area:2919.83m2
building area:2454.71m2
total floor area:11297.18m2
number of stories:6+PH1 stories
structure:stee
design:2018.7 - 2020.1
construction:2020.1 - 2021.3
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
街に泊まるホテルがいい。
何を当たり前なことを、と言われるかもしれない。しかし、訪れた街そのものに自分が一晩過ごしたと言える経験を持つ人は、果たしてどれほどいるのだろうか。
街路から扉をくぐってクローズドなロビーでチェックイン。エレベーターの箱に入り、薄暗がりの中廊下を通って玄関ドアを開け、水周りブロックを抜けて、ようやく部屋に辿り着く。空間は街から何重にも隔てられ、例えば「東京」にいる自分、よりも、「〇〇」というホテルブランドにいる自分、しか意識されないんじゃないだろうか。
それは旅人として大変につまらない、と常々思っている。だから、ここで僕たちが実現したかったのは、その特別な「街」そのものに泊まるホテル、である。
それは街のストリートが幾層も積み重ねられたかのような構成で、街路から直接つながる階段は、長崎や尾道等の斜面地の街のそれのように、それぞれ様々に特徴的だ。これを上り切ると、そこは風が吹き抜ける外廊下。部屋部屋はこの路地的な外廊下に直接面していて、伝統的な日本旅館のような縁側アクセスと土間を持つ部屋の構成は、新しく現代的でありながら日本的でもある。障子と引き戸を開け放てば、池袋の町並みが眼下に広がり、旅の“只中”にいる自分を豊かに感じることができるだろう。
旅人のことを渡り鳥と呼ぶのはドイツだったか。
都市のとまり木のようなこのホテルで、鳥のように、街に抱かれて眠ってほしい。
街のオセロ
池袋西口界隈は新宿歌舞伎町に並ぶ都内有数の歓楽街であり、その只中にホテルを作りたいという依頼だった。多くの飲食店の他に風俗店やラブホテルも入り混じる、いわゆる“悪所”での計画である。引き受けるか躊躇いもしたが、前提条件が悪いほどにその改善の効果や都市的な意義は大きいのだからと、取り組むことにした。暗く淀んだ都市の裏奥を、徹底的に、風通しよく爽やかな表面へと反転し、むしろ相対化することで見所へと転じてしまおうとする試みである。
このように捉えた時、そもそも従来のホテルの形式に疑問を持った。これまでのホテルでは通りから、内部の窺い知れない壁がちなファサードを潜り、ロビー奥のフロントで受付け、エレベーターの箱に詰め込まれた後、窓のない中廊下を歩き、耐火仕様の重い鉄扉を開け、水回りユニット脇を抜けて、ようやくベッドにたどり着く、というものだった。人の居場所は街から幾重にも隔てられた、深い暗がりである。この深すぎる街のdepthが都市環境の淀みを生み出している一因であるし、宿泊者に対しては、せっかくの旅先の街に泊まったという実感を失わせてもいる。
そこで提示したのは、街のストリートを垂直に積み重ねたような構成である。
街路から直接つながる階段は、長崎や尾道等の斜面地の街のそれのように、それぞれ様々に特徴的で、これを上り切ると、そこは風が吹き抜ける外廊下である。部屋部屋はこの路地的な外廊下に直接面していて、伝統的な日本旅館のような縁側アクセスと土間を持つ構成は、新しく現代的でありながら日本的でもある。障子と引き戸を開け放てば、池袋の町並みが眼下に広がり、旅の“只中”にいる自分を豊かに感じることができるだろう。このとき、街のdepthはあくまで浅く、人はいきいきと街に近づくことになる。同時にファサードは従来の閉鎖的な壁面から、人々の往来や振る舞いそのものへと転じることにもなった。
淀みには風が通り、暗がりは日向になり、裏奥の人々が街表に現れ出るというように、街の反転が始まったのである(実際、長年放置されていた隣地の古ビルも、この作品の竣工を追うようにして、同形式の外廊下型のホテルへと建て替えられつつある)。
オセロのように、街の様々な“黒”が次々と“白”へとひっくり返っていく様子が、竣工後の半年間で見て取れたが、この街の変化の連鎖こそが私たちの目的だったのである。
その名の通り、最初の“白”を街にポンと、置いてみる。
そんな仕事だったと考えている。
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「新建築」2021年2月/新建築社
data:
主要用途:ホテル
敷地面積:170.78m2
建築面積:107.18m2
延床面積:962.47m2
階数:地上10階
構造:鉄骨造
設計期間:2017年4月~2018年9月
工事期間:2018年10月~2020年4月
principal use:hotel
site area:170.78m2
building area:107.18m2
total floor area:962.47m2
number of stories:10 stories
structure:steel frame
design:2017.4 - 2018.9
construction:2018.10 - 2020.4
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
旅を内包するホテル
ホテルは旅の中にある。
そして旅の魅力は、遠く見知らぬ土地をさまようことで、日常帰属する社会の文脈や保護から離れ、世界を清新な目で眺めることにあるのだろう。しかし直に世界と接するのだから、
それは喜びであるのと同時に不安でもある(だから旅の途中の安心できるシェルターとして、ホテルは重要な存在となるのだ)。
この不安と喜びは、社会の既定の認知を揺るがすことで新たな視座を提示するアートの本質でもある。この意味で旅とアートは同質だ。
官民一体となったアートによる街づくりである「岡山芸術交流」と連動し、アーティストと建築家が協働する都市内分散型ホテルプロジェクト「A&A」は、岡山の日常生活の只中にアートを仕込む企てである。アートを旅と読み替え得るなら、今回実現すべきは、従来の「旅の中のホテル」の反対、つまり「旅を内包するホテル」であると考えた。
有限なホテルの中に、広大な旅の経験を折りたたむ。このために導入した原理はとても単純だ。
それは、h:2600mm×t:210mmの岡山産CLT板を「田」の字型に組み、これを三段ズラしながら重ねるだけ、である。
h:2600mmという壁=梁成は、その巨大な曲げ剛性と長い接合スタンスが保証する「剛」の接合によって、上下階で通り芯を共有するという木造の原則から建築を自由にし、
その結果、例えば1階の第1象限の空間は、従来のように2階の第1象限のみの直下ということにはならず、
2階の第1・第2・第3・第4象限と重なることになる。この関係をそれぞれ上下動線で接続し複数層重ねると、接続のバリエーションは無限に増加し、
動線はまさに旅のように延長しつつ、迷路化していく。極めて単純な構成/構築の原理が、旅の複雑な現象を生み出すのである。
木の迷宮のような室内は岡山県産CLTをそのままあらわしとしているが、これは外壁を波板スレート+木毛セメント版t25の認定形式で構成し、
防火構造の外壁としたことで、安全かつ安価に実現したものだ。周辺の特徴のない都市景観を遮り、空へと向かう垂直の開口方向は、
日常から離れた旅の経験を演出しつつ自然光をふんだんに取り込み、分厚いCLT壁の防音性能と合わせ、県庁所在地である大都市の只中にありながら、明るく静かな抽象的な空間を生み出した。
協働したアーティスト、リアム・ギリックによる巨大な文字列は、気象学者・真鍋淑郎による地球環境問題を論理的に表現した数式である。
この環境問題に代表される社会的に構造化してしまった諸問題の解決には、その束縛から離れた子供のような直截で客観的な視点(例えばグレタ・トゥンベリのような)が必要となる。
盲信を揺るがせるアートと、旅そのものである建築によって、人々を日常にいながらにして迷わせ、一時、社会の外部へと連れ出してしまうことを目論んだのである。
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「新建築」 2020年1月/新建築社
迷う、建築
「迷うこと」に関心があります。
いや、建築は明快な論理や構造で揺るぎなく存在すべき「迷いのない」ものの代表なのですが、その迷いのなさゆえの、なにか根本的な都合の悪さが、最近、目立ってきているように思うのです。
例えば、変化し続ける状況の中、迷いなく進行し続ける巨大建築プロジェクトの危険さは、昨今、社会から問題として認識されつつありますし、また、迷いなく自己完結した堅牢な建築のシステムが、様々な文化の多様性や、将来の予測し得ない人々の参与を除外していることは、多方面から指摘されている通りです。
僕は建築に「迷い」を取り戻したいと考えています。迷うことによって企図する者の内部でデザインは自己完結せず、世界に向かって開き始めます。自己内で完結しないのだから、周囲を迷いの輪に巻き込み始める。そうして一緒に迷いを共有することで、個々人の主体的な思索に基づいて社会が再組織化されていく。そんなことになったら素晴らしい。。。
リアム・ギリックの巨大なテキストは社会の確信(/
盲信)を揺らがせ思考させる、つまり迷わせるトリガーです。これとともに作動する建築的な「迷い」の要素を、プロセスに、そしてデザインのアウトプットに仕込んでいくことを、目論みました。
具体的には岡山名産の巨大な集成材であるCLTを田の字に組んだフレームを用意する。これをズラしながら三段積むことで、立体的で複雑な経路網が折り畳まれた「迷いの空間体」を生み出しています。
幼少期以来、久しく味わっていない「迷い」や、その時立ち現れてくる世界の感覚を思い起こして頂ければ幸いです。
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(原田真宏/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
data:
主要用途: ホテル
敷地面積: 238.20m2
建築面積: 78.08m2
延床面積: 104.99m2
階数: 地上2階
構造: 木造(CLT造)
設計期間 2017年6月〜2018年11月
施工期間 2018年12月〜2019年9月
principal use : hotel
site area : 238.20m2
building area : 78.08m2
total floor area : 104.99m2
number of stories : 2story
structure : timber (CLT)
design : 2017.6-2018.11
construction : 2018.12-2019.9
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
東雲の大三角形・或いは“てぶくろ”
都市的なスケールをもった、エレメンタルな断片。
これを東雲の土地の上にコトンと置いてみる。
東京都江東区東雲に、未来の暮らしを考える施設をつくりたい、とクライアントである全国に木造賃貸アパートを供給する企業から依頼された際に、漠然と考えたことだ。東雲地区は戦後埋め立てられた新造の土地で、そこに立ち並ぶオフィスビルやマンション等の建築群は土地に由来するというよりも、どこか離れたところにある本社や本店にその存在理由を持っている。だからだろうか、本来歴史的な都市では、土地をそこに暮らす人々が「解釈」し、その結果としての建築物が積分されることで人工と自然が一体となり、人工と自然が一体となり実感を伴った生活環境が形成されるものだが、この東雲にはどこか無根拠な白々しい空気が漂っていた。
そこで人々の解釈を呼び起こすような何か〜それはセットアップされた「建築」ではなく、それ以前のものであるべきだ〜を、東雲の土地に置いてみようと考えた。しかし、敷地境界線内で完結した脱構築的断片群によるテーマパークとなっては意味がない。都市そのものとダイレクトな関係を持つ巨大でエレメンタルな断片が欲しいのだ。これを都市の人々と共に解釈し使っていくことで、東雲に、住民と土地に実感のある接続性を生み出し、クライアント企業には既成概念ではない未来の暮らしを考え出す「場」を提供できるのではないかと考えたのである。
その都市的な規模を持つエレメンタルな断片とは、具体的には、長辺60mに及ぶ木製の大三角形という、単純で幾何学的な物体である。
この木製の大三角形は、断面寸法270mm(斜材は210mm)×2300mmのCLT板によって、全体に相似する直角三角形を単位として組子状に分割することで構築され、CLT部材の運搬限界である12mをその約5倍も超え出た無柱の木架構体を実現している。これを下から支えるソリッドなコンクリートの量塊はオフィスや会議室を内包しつつ、西端部を大きく三層分オーバーハングすることで、その下部に車寄せとなる庇下のエントランスを生み出してもいる。
この木製大三角形とそれが斜めに寄りかかるコンクリート塊は、その狭間に、これも巨大な“空隙”を作り出した。CLTの梁成2300mmは深いライトウェルとなって、北側に傾斜したガラス波板屋根面からの自然光を柔らかく拡散させながら届けるため、この“空隙”は常に明るい。この室内外の明度差の少なさや、サッシ寸法と部材数が最小化されたファサードによって、内/外の境界であるガラスはその存在を消し、木製の三角形という巨大で単純な物体と、それが生み出した空隙は、現象としても都市に直接に露出することになった。
都市に置かれた巨大なエレメント。
その未だ、何にもなっていない大きな木製の三角形は、森に落とされた童画の「てぶくろ」のように、街の人々に解釈され・居つかれることを待っているのである。
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(原田真宏/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
ROOFLAG×東急建設×BIM
https://www.youtube.com/watch?v=XkjoFFOoDH0
【タイムラプス】CLT大屋根ができるまで/ROOFLAG賃貸住宅未来展示場
https://www.youtube.com/watch?v=1cLRGdMjnME
ROOFLAGに込めた思い
https://www.youtube.com/watch?v=Gw4L6xcvk7A
data:
主要用途:事務所(オフィス)
敷地面積:2989.95m2
建築面積:1493.55m2
延床面積:3725.57m2
階数:地上4階
構造:鉄筋コンクリート造、一部木造、一部鉄骨造
設計期間:2018年4月~2018年10月
工事期間:2018年11月~2020年3月
principal use:office
site area:2989.95m2
building area:1493.55m2
total floor area:3725.57m2
number of stories:4 stories
structure:reinforced concrete partly steel and wood frame
design:2018.4 - 2018.10
construction:2018.11 - 2020.3
photo credit:
Mitsumasa Fujitsuka / 藤塚 光政
Tokyu Construction Co., Ltd. / 東急建設
土地を建築する
二つの行為で建築はできている。一つは“フレーム”を土地に立てること。もう一つはその“土地”そのものを操作、もしくは作り出すことだ。
木造や鉄骨造は前者に、RC造や組積造は後者へとそれぞれ属していて、たとえば木で住宅を作ることを考えれば分かり易い。上部構造は言うまでもなくフレームを立てることだし、下部のRC基礎部は強固で湿度の低い状態への土地の操作だと言える。比率の差こそあれ、その二種類の成分が建築を成り立たせているのである。今を生きる生命体である私たちは、フレームに対しては、いずれ朽ち倒れるものであるからこそ、その立ち上がっているという“現在性”に共感して価値を見出し、逆に土地に対しては、時の経過を越えて生存を良好に保障する“永続性”を希求しているのだろう。建築的に“土地”を扱おうとするとき、時間を越えて良き暮らしを約束する“基盤的質”のようなものを生み出そうとする意思が、常にそこにはある。
半島の先端、東に大洋に面するこの敷地で私たちが考えたことは、純粋に“土地”として建築を捉えきることである。季節や時間毎に階調豊かに、時には劇的に変化する海や半島の岩山からなる“無垢の自然”には強い魅力があるが、しかしその反面、半島先端であるがゆえに周囲を遮るものもなく、しばしば強風や大波に曝される荒々しい土地柄は脅威でもあり、ここでは"フレーム"は心もとない。求めるべきは、この土地の魅力は拡張し、その脅威は低減する建築的“地形”の創出であると考えた。しかし同時に、味わいかつ畏怖すべき“無垢なる自然”に対して導入する人為的操作は、最小限に留めるべきでもある。
まず、半島の岩山を削り出したかのようなコンクートの直方体w30×d17×h11mを用意する(針葉樹製の型枠は、“斜状葉理”とよばれるこの土地に特徴的なパターンに合わせ、斜めに設置された)。これを海側東辺に沿って配置し、南東上部角からw23×d11×h7mの負のボリュームで削り取ることで、GL+4,000の高く掲げあげられた「地平」を生み出して高潮から逃れ、同時に、冬には居住域を北西からの季節風から守り、夏は南東からの海風を受け止める「L字のブロック」を作り出す(北西に広がる工業地帯の風景もこれによってトリミングされる)。そのウィングに内包される空間は遠く東に広がる水平線と対峙し、南からの陽光を受け取ることにもなるだろう。
ここまでは、ある種リーズナブルな建築的な地形の形成のプロセスだ。そこに私たちが唯一、意思(“恣意”と言ってもらってもいい)によって導入するのは、北東方向へと切り上がる“斜めのスリット”である。
それはL字のボリュームをくぐり、空と海洋へと放たれ上昇するように人々を誘う大階段である。この特別な角度を持った最初の動線の投げ出しが、空間の外・内を滑らかに移動し、最後の建築的半島である富士を眺めるルーフテラスに終わるシークエンスを生み出した。地形的操作によって得られた全ての風景や環境の特徴要素、さらには周囲との関係性は、導入された一本の斜めの線に始まるシークエンスによって、境界なく調和した全体へと統合されるだろう。
建築的に“土地”を作り出し、これに一本の特別な線をひくことで、“永続的な人間の居場所”を生み出したのだと、考えている。
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「住宅特集」 2019年1月/新建築社
data:
主要用途:週末住居
敷地面積:1316.57m2
建築面積:534.59m2
延床面積:506.89m2
階数:地上3階
構造:RC造
設計期間:2016年7月~2017年7月
工事期間:2017年8月~2018年10月
principal use:weekend house
site area:1316.57m2
building area:534.59m2
total floor area:506.89m2
number of stories:3 stories
structure:reinforced concrete
design:2016.7 - 2017.7
construction:2017.8 - 2018.10
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
来迎する「山」
「その石は踏んじゃだめだよ。お墓かもしれないからね。」
小ぶりな西瓜ぐらいの丸石の上を歩こうとしたら、今はもう亡くなった祖母にそう注意された。母方の代々の墓地は山の中にあって、濃く茂った木々の緑の中に、墓石なのか自然石なのか分からないような有様で、それは自然と混ざり合ってしまっていた。
南池袋という東京の最都心部で、納骨堂を含んだお寺の設計を依頼された際に思い起こした、たぶん小学生低学年時分の記憶である。
敷地はその記憶の中の墓地とは正反対に、人が作り出した都市環境の只中にあるが、建て替えの対象となった古い木造入母屋屋根の本堂と、その小さな境内にあった桜の老木は、人為に占拠された世界にあって、地域の人々にとっては、ほっと息をつける生命の一隅とでもいうような場所であったようだ。施主である住職親子は地域の人々が心豊かに暮らしていくことへの公共的な責任意識を持たれていて、地域のそういった日常の中での精神的な拠り所としてあり続けることを求められていた。
プログラムは以前からあった寺(本堂)に加えて機械式納骨施設を含んだ、いわば寺と墓地の立体的な積層体であり、大きなボリュームとなることは避けられない。そこで思い至ったのは「山寺」という考え方である。比叡山延暦寺、身延山久遠寺など、いつも寺は山をその名に戴いている。山そのものが信仰の対象でもあるかのように、風景としても寺の背後には常に山が控えていて、それらは対をなしている。立体的な寺/墓地は大ボリュームとなって都市景観中に現れるのだから、むしろその大きさを生かし緑の山塊として、「寺のような、山のような」存在としてしまおうと考えたのである。
建築は一層を地域開放の大仏殿、2〜6層を参拝施設、7階は法要を行う本堂とし、それらのRC構造体の上部に、軽やかな鉄骨造の書院を乗せた構成である。2〜7層の各スラブのテラス部に土入を施し、そこに主として関東の潜在植生の木々を植樹した後、それをカバーするようにして、銅管でできた簾状のスキンを7階パラペットから吊り下ろした。重力なりに懸垂曲線を描く銅の簾は、離れて通りから見れば視線を透過して、背後の樹々だけが緑の山塊となって都市に現れ、逆に近づいて見上げれば、伝統的な社寺建築の銅板葺きの反り屋根のようにイメージを転じ、新たに「山」に植えられた桜と共に、かつての本堂の記憶と接続している。更に、正面から山門を抜け、次第に高く反り上がっていく垂木と空間という構成もまた、以前の本堂から引き継いだものだ。
その暗い最奥部には木彫りの大仏が据えられているが、それは雲の上に乗り、地についていない。これは遠く浄土の世界から雲に乗って「来迎」したことを示しているそうだ。来迎によって人界にまで浄土が延長されてくるのだろう。私たちが今回行いたかったこともそれに近い。かつて祖母に連れられて行った、いずれ還っていく自然としての「山」を都市に「来迎」させることを願ったのだ。それは当然「山」そのものではないけれど、大仏という徴(しるし)と同様に、都市に山をつなげ、人々にそうした人間存在の有り方を思い出させる。こうした都市の風景を作り出すことに、新しい都市型の寺/墓地の公共性の意味を重ねたのである。
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「新建築」 2018年9月/新建築社
data:
主要用途:寺院/納骨堂
敷地面積:297.07m2
建築面積:222.67m2
延床面積:1202.84m2
階数:地上8階
構造:RC造
設計期間:2016年5月~2017年1月
工事期間:2017年4月~2018年6月
principal use:temple/ossuary
site area:297.07m2
building area:222.67m2
total floor area:1202.84m2
number of stories:8 stories
structure:reinforced concrete partly steel frame
design:2016.5 - 2017.1
construction:2017.4 - 2018.6
photo credit:
Eiji Kitada / 北田 英治
data:
主要用途:眼鏡店
敷地面積:-
建築面積:-
延床面積:41.65m2
階数:地上1階
構造:-
設計期間:2017年3月~2018年4月
工事期間:2018年5月~2018年7月
業務:内装設計監理
principal use:eyewear shop
site area:-
building area:-
total floor area:41.65m2
number of stories:1 story
structure:-
design:2017.3 - 2018.4
construction:2018.5 - 2018.7
scope of works:interior design & construction supervising
photo credit:
DAICI ANO / 阿野 太一
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
「スキ」の配分
名古屋はどこもかしこも緻密な街だという印象がある。
碁盤目状に整然と整備された道路に敷地ブロック、そこに建ついかにも効率の良さそうなオフィスビル群。それらカッチリとしたハードの背後には、それに見合ったキッチリとした封建的な統治機構が透けて見えるようでさえある。
名古屋駅から敷地のある名城公園までタクシーで向かう途中、窓外を眺めながらそんなことを考えていた。
名古屋市主催のPFI事業のプロジェクトである。可能性を眠らせている公共用地を、期間を限って民間に貸し出すことで地代を得るとともに地域活性化を試みる、いわゆる公共資産の民間による利活用の事業だ。10年を貸与期限として定められていたため(途中20年に変更された)、永続的な建築物として考えることに意味はない。
そこでむしろ、一般的な公共建築のように永続性を保証するような、揺るぎない“完全性”を標榜するのではなく、積極的な意味での“中途半端さ”を求めるべきではないかと考えた。中途半端とはいわば“スキ”である。完全なものは崇拝や尊敬の対象になるかもしれないが、手は出しづらい。逆にスキがあって未完成な存在であれば、幼い子供に手を貸したくなるように、市民の参与を誘うことになる。つまり「中途=プロセス」を市民と共有することで「育成型公共施設」となり、市民が主体となって街をマネージメントしていく穏やかな機運を、この場所に芽生えさせることができるのではないかと目論んだのである。
建築は、「大津通と公園の両側に賑わいを表出する道路境界に沿った配置」「平坦な名古屋の土地に都市の桟敷のような立体的な視点と関係性を与える」「観覧席ともなる大階段と商業施設で市民の広場を挟むL字型プラン」など、コミュニティを醸成する基本的な構成を押さえつつも、デザイン的には「軽鉄の下地が透けて見えてしまう木製の外壁」や「何か手を加えなければ間延びしてしまうような広大なテラス」、「端部が始末されていない人工木デッキ」、「工事途中で設置が棚上げされたメッシュルーフ(下地はあるのでいつでも取り付けられる)」等々、様々な中途でスキのある要素によって形成され、人々の参与を誘っている。
言ってみれば息の詰まるような効率的に完成された都市に、スキを与えたかったのだ。過度に生い茂り、都市の暗がりとなっていた公園の木々は適度にスキ採られることで、明るく皆が集える広場である「都市のスキマ」へと転換されたし、木製の外壁は樹木と同程度の空気と光を含むスキ=ピッチとなることで拒絶の記号である壁面を、許容を感じさせるスキのある相貌へと変化させている。
ここで試みたように、様々なレベルとスケールで「スキ」を配分していくことが、完成後の都市環境をリバブルにする上で重要だと考えている。
ー
「新建築」 2017年7月/ 新建築社
data:
主要用途:テナントビル
敷地面積:165122.87m2
建築面積:1383.16m2
延床面積:1494.80m2
階数:地上2階
構造:鉄骨造
設計期間:2016年5月~2016年8月
工事期間:2016年10月~2017年4月
principal use:tenant building
site area:165122.87m2
building area:1383.16m2
total floor area:1494.80m2
number of stories:2 story
structure:steel frame
design:2016.5 - 2016.8
construction:2016.10 - 2017.4
photo credit:
Koji Fujii, Nacasa&Partners Inc / 藤井 浩司
(ナカサアンドパートナーズ)
自然科学の寺子屋
愛知県知立市は東海道五十三次の39番目の宿場町である。
敷地は旧東海道沿いの本陣が置かれた場所にあり、地域の歴史的文脈上、町の要と言っていい。その歴史的重要性から、地元に本社を置き世界的に事業を展開するロボット製造会社が、所有者不在となった土地を入手し、まちづくりを含めた地域貢献の施設をつくることになった。プログラムは「自然科学の知識を科学実験を通して英語で教える学童保育施設(=寺子屋)」と、地域の方々、特に母親たちが気軽に集うことのできる「キッチンスタジオ付きカフェ」のコンプレックス。そこには自社と同じく、自然科学の技能によって世界に羽ばたく道筋を地域の子供達に示したいという事業主の思いがある。
計画に当たって、2本の柱を立てることにした。一つは敷地の歴史性から「歴史的文脈を継承する」ことであり、もう一つは科学実験というプログラムやロボット技術という事業主の背景から「自然科学の原理に即する」というものである。
地域の歴史に連なる
この近辺では旧東海道に面して多くの社寺が残り、落ち着いた街並みを形成しているが、そのどれもが、通り側から順に「低い平入り屋根の門」、パブリック・スペースでもある「境内」、その奥にさらに「大きな平入りの本堂」と続く構成を取っている。これに倣って、カフェや職員室を内包する低い平入りのゲート部分、そこを抜けると、隣接する公園(及びその大樹への景観)と連続する「境内」に相当するホール、その奥に主要機能である教室群を内包する大きな平入り空間、と続く構成とした。古い社寺を訪れた際、低い門をくぐって境内に出ると、本堂の反りのある平入りの大屋根に視線が誘導されて、上空へと自然にヘッドアップする清々しい経験を誰もが持っていると思うが、この経験もまた、大屋根の反り上がる天井へと空間形態が反転されることで保存されている。さらに正面の旧東海道側に立つと、低く垂木の並ぶ軒を持つ平屋根の向こうに、より高い主屋の屋根が見えるが、それはほとんどこの地域の社寺の佇まいそのものである。
自然科学の原理にならう
一方、この建築の存在としてのあり方は、自然科学の最も基底的な原理である重力が決定する形=カテナリー・カーブ(懸垂曲線)に即している。二つの並行する鉄骨製の鳥居状の棟木に、子供のための建築らしく、木でできたニットのようなやわらかな屋根架構を掛け渡すことで、空間全体はやさしく覆われている。この木製ニットは縦糸を欧州赤松集成材の短材(長:1500mm、厚:105mm)として、これを横糸のスチールロッド(φ22mm)2本で貫通する様に編み込むことで形成されるが、カテナリー・カーブの性質上、構造内部には引っ張り方向の力しかかからないため、この様な木製の優しくやわらかな架構によって、最大スパン20mもの無柱の大空間を覆うことが可能になるのである。
多様に現象する、単純な原理
完成した建築は、旧東海道側から見れば、近隣の社寺共に歴史的な街並みを形成する穏やかな佇まいであり、隣の公園側から見れば、自然科学の原理を表明する純粋に幾何学的な姿となって、子供達に自然科学の知を分かりやすく教えている。またさらに、内部に入ればそこはシーツの下のような、やさしく伸びやかな子供のための空間でもある。これらに代表される建築の多様な現れは、無関係にかき集められたのではなく、単純な一つの原理から発している。
地域の多様性に開きながら、同時に健全な原理を芯に持つことで、時間を越えていく普遍的強度を獲得できたらと考えている。
ー
「新建築」 2016年11月/ 新建築社
data:
主要用途:アフタースクール、地域コミュニティセンター(カフェ+ホール)
敷地面積:997.76m2
建築面積:536.80m2
延床面積:744.70m2
階数:地上2階
構造:鉄骨造(一部木造)
設計期間:2014年6月~2015年3月
工事期間:2015年6月~2016年7月
principal use:Afterschool, local community
center(cafe+hall)
site area:997.76m2
building area:536.80m2
total floor area:744.70m2
number of stories:2 story
structure:steel frame, partly wood frame
design:2014.6 - 2015.3
construction:2015.6 - 2016.7
photo credit:
Mitsumasa Fujitsuka / 藤塚 光政
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
立山連峰を稲田越しの正面に見晴らす、北陸富山の敷地。
ここに家族四人が暮らす住宅を、という依頼だった。
その恵まれた周辺環境へと閉かれた伸びやかな空問と家族の親密な繋がりを育むように程よく閉じた空問。その性格の異なる2種類の空問が重なるような平面構成を求めた。
それは豊かな周辺へと伸び行くよう離散的に配されたRC壁造による解放的な空間の上層に、これとは無関係に木壁造による内向的で程よいスケールの空間をストンとのせることで現実化されたが、これは一枚の平面に2種類の異なる"通り芯"の体系が重ねられたことを意味している。"通り芯"が"通っていない"という、これまでの建築ではありえなかつたことが起こるわけだが、これによって、質の異なる上下の空間は跨ぎあい始め、複数の結びつきや光の干捗が生じ,単調ではない豊かな現象が発生することになった。
この建築の"通り芯からの解放"は、構築的には上層の木壁造を成立させる梁成2,100ミリの大断面集成材によるところが大きい。その階高を一息に確保してしまう程に巨大な縦断面が十分な曲げ強度を獲得し、さらにそれが接合部鉛直方向の十分なスタンスとなることでこの方向については完全な木造剛接合が実現するため、上下の通り芯がずれることで生じる力学上の不合理を、余裕を持って受け入れることが可能になったのである。
不合理と今ぼくは書いたが、しかし、土地を見渡せば,力学上純粋な合理的形状を表すものはそう多くはない(原理は別だが)。たとえば、正面の立山の峰々も,その岩塊は時にオ一バーハングし、また時には吃立するが、これも十分な物質の"量"が可能にする、ありうべき"自然の形"である。木の、或いはコンクリ一トのたっぷりとした質量が、通り芯から自由に、自律的に存在することで生じる感興は,立山の峰々を見る時のそれに近いように思う。
これまで絶対的な制約として建築を束縛してきた"通り芯"から建築を実質的に解放することで空間的にも存在的にも建築は新しい位相へと移ることになるのだろう。
ー
「GA HOUSES 149」 2016年9月/A.D.A.EDITA Tokyo
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:1467.51m2
建築面積:243.98m2
延床面積:192.91m2
階数:地上1階
構造:RC造(一部木造)
設計期間:2012年9月~2013年11月
工事期間:2015年9月~2016年7月
principal use:private residence
site area:1467.51m2
building area:243.98m2
total floor area:192.91m2
number of stories:1 story
structure:reinforced concrete. partly wood frame
design:2012.9 - 2013.11
construction:2015.9 - 2016.7
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
“傘”という、おおらかな形式
東海地方の小さな住宅地、その最奧に敷地はある。背後には樹高20mを優に越える主に落葉広葉樹からなる森林公園が広がり、これに守られるようにして、南には長年丹精されてきた陽だまりの庭が抱かれている。40年来の近所付き合いは、鍵をかける必要もないほどの、気の置けない人間関係を醸成していて、取り壊された旧家屋やその庭は近隣の主婦たちのたまり場のようにも使われていた。穏やかな自然環境と小さな社会的環境は対峙するというよりも、相互に混ざり合うようにして有機的な関係性の編物となり、豊かな生活の場所=風土を生み出していた。
ここで新しく家を建て替えるに当たって、内・外を明確に壁面によって規定する従来型の家屋の形式はふさわしくないように思われた。かといって、心理的な“家”としてのまとまりや中心性がないのも、小さな子供から祖父母まで三世代が暮らすことになる建て主家族には馴染まない。
そこで我々が選択したのは“傘”の形式である。
一本のセンターコラムが錘状の屋根を持ち上げる“吊り屋根”の形式であるため、外周壁は通常のように圧縮力を負担する必要がなく、基本的に構造としてフリーになる(倒れ止め程度にほんの少しの引っ張りを受け持つだけでいい)。これは、周辺環境との多様な関係に応答する“境界”を形成するに都合が良い。中心が最も高くなる空間の形状や大黒柱の存在は、暮らしに程よいまとまりや温かみを与えることだろう。
具体的には、大黒柱を有した木造の方形吊り屋根とし、これを敷地形状に合わせて東西に引き伸ばし、更に西側の森と対面する“丘のような緩勾配の屋根上デッキ”を生み出すよう、中心点を東へと偏心させた。この吊り屋根は町組の軸に揃えられたが、その下の内外境界となる外周壁は、森や太陽光に合わせ、屋根とは“9度”の角度を保って設置された。この角度によって、東側の住宅地と西側の森林公園から直接につながる陽当たりの良い“えんがわ”と、庇付きの幅広の玄関ポーチが生み出され、近隣との接続性を高めている。広々としたえんがわに接する南境界は、間口約18mの連続開口となっているが、これは3m近い片持ち状の庇と合わせて、吊り屋根構造が可能にしたものだ。
我々は、穏やかな東海地方の風土に、一本の傘を差し出したのだ。開かれた傘は環境条件によって大らかにゆらぎ、その下には周囲から自然と人々が集まり来て、そして伸びやかに暮らしていくことだろう。東京在住の、建て主にとっては長男でもある建築家は、そんな未来の様を思い描いている。
ー
「JT」 2016年7月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:499.96m2
建築面積:160.29m2
延床面積:231.18m2
階数:地上2階
構造:木造
設計期間:2014年5月~2015年2月
工事期間:2015年3月~2016年4月
principal use:private residence
site area:499.96m2
building area:160.29m2
total floor area:231.18m2
number of stories:2 stories
structure:wood frame
design:2014.5 - 2015.2
construction:2015.3 - 2016.4
photo credit:
Mitsumasa Fujitsuka / 藤塚 光政
風景の建築
栃木県益子町は陶芸に代表される民藝運動で知られている。その南部地域に道の駅を計画するということで、何度もこの地域を訪れた。敷地周囲には延々と田園や畑が広がり、常にその背後には穏やかな低山が取り巻くように連なっていて世界を他から区画している。そもそも地域振興施設でもある道の駅には、外には地域の魅力を明瞭に伝え、内にはそこに住む人々をアイデンティファイするような、ある種の、地域の象徴としての役割がある。そこで考えたことは、ここで目に映る風景、それだけで建築を作れないかということだ。形式(形)も材料(質)も、すべて風景から見いだすことで、その地域らしさを確かめるような建築を求めたのである。
空間を覆う屋根架構と、土地に連なる壁体として建築は整理され、捉えられた。
まず屋根<ルーフスケープ>は周囲に広がる山並み<ランドスケープ>の連なりである。その勾配は地域の山々の稜線に揃えられ、平面的な書割にならないよう、それぞれ異なる位相で起伏する並列する3本の奥行きを持った屋根列とした。その起伏のリズムや肌理感もまた、地域の山並みのそれに倣うことで屋根形は定められ、また、最大スパン32mともなる屋根架構を成立させる材料もまた、八溝杉と呼ばれる地場産材を地元の集成材工場で加工したものを用いている。
一方、壁体以下の下層部は土地に連続する存在である。土間がそのまま立ち上がったかのような台形の壁体は、純粋な地元の土で左官され、その土俵のような豊かな量感によって、益子町が陶器や農産物といった「土からの恵み」で成り立っていることを示し、町の標語でもある「土のおもてなし」を体現している。
山並みのリズムに即して配された木架構や、それを支えながら、一体空間を程よく分節するように離散的に配置された土壁体による内部空間では、大きく小さく移り変わる空間変化や、屋根の位相差によって生まれるハイサイドライトから落ちる自然光の効果もあわせて、付近の山襞を散策するようなシークエンスが生み出され、商品である産物との単純ではない出会いが演出されている。さらに両妻側の大開口部は、その先に広がる田畑や山並みと内部空間を連続させるため、産物や料理として今手に取り味わっているものと、目にしている風景とが直接の関係をもつことにもなる。
こうして作られた建築は、象徴的にも経験的にも土地の風景に連続し、さらにそれを純化し明らかにすることになった。これは陶芸と同じく、人がその土地の風景を解釈し再創造することで生まれる二次的自然の効果なのだろう。
風景でつくり、風景をつくる建築を、求めたのである。
ー
「新建築」 2016年11月/ 新建築社
data:
主要用途:道の駅
敷地面積:18011.88m2
建築面積:1595.26m2
延床面積:1328.84m2
階数:地上1階
構造:RC造(一部木造)
設計期間:2013年8月~2015年8月
工事期間:2015年9月~2016年9月
principal use:Roadside Station
site area:18011.88m2
building area:1595.26m2
total floor area:1328.84m2
number of stories:1 story
structure:reinforced concrete, partly wood frame
design:2013.8 - 2015.8
construction:2015.9 - 2016.9
photo credit:
Mitsumasa Fujitsuka / 藤塚 光政
都市の様相をそのまま引き取る
敷地周辺は戦前からの地割りも残る稠密な住商混合地域。ここに親子三世代が暮らすオフィス兼住宅を、というのが依頼だった。古くからの街らしく、明らかな都市軸もなく、軒を接するように犇めき合う既存建築群もまた、構造形式・規模・用途、それぞれ全て多種多様である。計画によらず、混乱のままに都市化が進展することで、特徴的で魅力的な平衡状態に収束したという、ある種、もっともこの国らしい都市の様相を呈しているようだ。
古典的な手法であれば、このような非-秩序的な敷地背景がある場合、秩序の表象としてモノリシックな「正」のボリュームを対比的に打ち立てるのかもしれない。しかしそれでは結局、非-秩序の一要素に回収されるだけで終わるだろうし、街の特徴という恩恵を捨て去ることにもなる。むしろここでは、積極的に非-秩序としての都市の様相をそのまま引き取り、新たな建築の質に転換してしまうべきではないかと考えた。
三世代の暮らしに加えてオフィスも要求されるこの住宅はそれなりの容積となるが、これをスクエアなボリュームとして既存都市に無理やり押し込むのとは反対に、周囲の隣家・道路・既存樹木・庭石・古井戸・お社、等々といった都市的要素の間に、「浸潤」させるように配置することにした。結果的に外形は都市の様相そのままに、複数の襞を持つアメーバ状の複雑なアウトラインを持つことになったが、それは一様ではない「人の暮らし」にとっては、むしろ好ましい「地形」と読みとることもできる。
この都市的な地形を「人の居場所」へと変換するために、我々が行った唯一の(と言っていいだろう)建築的操作は、いわば「負」の建築ボリュームである「矩形の中庭」を、その複雑な平面の中心に配することである。これによって、快適な採光・通風をもたらすのはもちろん、複数の襞は様々な生活に適した特徴ある諸室へと変わり、また、親子でありながらも自立した世帯である各家族間には適切な距離と間合いが確保されるが、矩形の中庭とそれへ向かう一律勾配の登り梁という内側からの「秩序」によって全体は統合されてもいる。
我々が行ったことを振り返ってみれば、通常であれば「<多様な都市>に、<単純な建築>を押し込み、さらにまたその内部に<居住の多様>性を作る」という冗長なプロセスを、「<多様な都市>を、そのまま<居住の多様>性と捉える」と単純化しただけなのかもしれないし、中庭という内向きの外部に向かって建築の内-外をひっくり返すことで都市と生活を接続しつつ、同時に、都市の無制限な「秩序化」という建築の方向をも、反転させようと試みたのかもしれない。
何れにしても、都市化の「果て」から始まる建築の「その先」が面白いと、思う。
ー
「住宅特集」 2016年1月/新建築社
都市に浸潤する秩序 / アウトラインをもたない建ち方
ずっと、「秩序」は関心事の中心付近にある。
構造・構法・素材・エネルギーなど様々な側面の自然科学的な合理性を担保しながら、経済・法規・慣習・歴史文化などの社会学的合理性にも応えるという、極めて多元的な建築という存在を、さらに社会的恊働によって成立させる為には明晰な「秩序」は不可欠だ。
しかし、世界は森羅万象の事象が起こり続ける動的な環境である。ある時点で完全ではあっても、固定的な秩序はいずれその完結性故に機能しなくなる。完結的な秩序にある種の「冷たさ」を感じるのは、動的な存在である我々を許容しない、その根本的な性格に理由があるのだろう。
だからといって「無秩序」に向かうのは、先に書いたようにあり得ない。無秩序「風」な建築は可能だろうが、その裏では複雑で不健全な秩序が下支えしているだけなのだから。
求めているのは完結的ではない秩序である。「開いた秩序」あるいは「しなやかな秩序」と、我々はそれを呼んでいる。時間の変化を許容し、外部からの新たな参与を可能にしながらも、その統合性を失わないような秩序。
一つ、モデルとしているのは生物の秩序だ。それは常に外部環境や時間による変化を受容しながらも、その有機体としての統合性を保持し続けるまさに動的な秩序である。そしてそれは決して複雑怪奇な秩序ではなく、例えば144度ごとに枝葉を延ばす事で上下の重なりを避け日照を多く獲得するある種の植物のように(これを「葉序」という)、単純で効果的な原理なのである。
そんな「開いた秩序」を用いる事で、生きている世界の為の建築を実現していきたいと思っている。
ー
「住宅特集」 2015年1月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:755.61m2
建築面積:289.34m2
延床面積:333.96m2
階数:地上2階
構造:木造 (一部RC造)
設計期間:2013年6月~2014年6月
工事期間:2014年7月~2015年6月
principal use:private residence
site area:755.61m2
building area:289.34m2
total floor area:333.96m2
number of stories:2 stories
structure:wood frame, partly reinforced concrete
design:2013.6 - 2014.6
construction:2014.7 - 2015.6
photo credit:
Toshiyuki Yano / 矢野 紀行
"1g"のためのデザイン
形而上の幾何学が、形而下の存在へと下ることを、マテリアライズ(=物質化)と言う。マテリアルとしての実質と、形而上の幾何学としての本質が、極限的に均衡する時、その必ずしも重なり合わない両義性が美的強度を生むのだろうと、建築をデザインする中で常に確認しているのは、僕だけではないだろう。
ジュエリーブランドである「shihara(シハラ)」は、ジュエリー特有のデコラティブさは一切持たない。代わりにその“強度”を発生させるのは、上記の建築と同様の美学的機構である。そして、そのプラトニックな幾何学がマテリアライズするにあたり要求する質量は、たとえば代表作の一つである正四面体のピアスの場合、ほんの“1g”の金(Au)だ。“1g”の実質と、それが示す純粋な幾何学。その間に張り詰めている「透明なテンション」がここで展示されるべき対象なのである。
我々がデザインとして行ったのは、仕上げを徹底的に排除したラフなコンクリート躯体の中に、プラトン幾何学の最も基底的な「直角」をコトンと置くこと。ただそれだけである。この「直角」は、厚さ100㎜の展示什器と、高透過ガラスミラーによる姿見からなっている。ミラー面に映り込むことで倍の長さを現す展示什器の背面は鉄シートで裏打ちされた経師貼りの白い面であり、ここに厚さ0.55㎜の化学特殊強化ガラスによる極薄の棚板を磁力によって片持ち状に固定している。ジュエリーの軽量さを生かした磁力による固定は自由な展示レイアウトのためでもある。扉もまた高透過強化ガラスを床面から片持ち状に突き出る棒状のヒンジによって枠もなく納めることで、空中に浮かんでいるかのようにその量感を喪失させている。
以上を含めたすべてのデザイン操作は質量を最小化し、純粋な幾何学との均衡へと環境を導くために行われたのだが、その結果、空間は“1g”のジュエリーと同質な「透明なテンション」に満たされることになった。形而上と形而下の世界が重なり合った、shiharaらしい店舗環境が実現したのではないかと考えている。
ー
「商店建築」 2015年8月/商店建築社
data:
主要用途:ジュエリーショップ
敷地面積:-
建築面積:-
延床面積:20.9m2
階数:地上1階
構造:-
設計期間:2014年9月~2014年11月
工事期間:2014年11月~2014年12月
principal use:jewelry shop
site area:-
building area:-
total floor area:20.9m2
number of stories:1 story
structure:-
design:2014.9 - 2014.11
construction:2014.11 - 2014.12
photo credit:
Daisuke Ito / 伊藤 大介
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
海辺からおだやかに登っていく丘、その中腹に敷地はある。
南を見晴らすと大洋のかなたに水平線、西には半島の連なり、北側は里山の緑がとり囲み、東脇には樹齢200年は優に越えるだろう広葉樹が敷地半ばを覆うようにして樹冠を広げている。
四方それぞれに特徴ある景観が広がり、通常のように建築に「表/裏」を設定することは相応しくない。むしろ「四方全てが表」となるような形式を求めることになった。
梁成
2200mmの大断面集成材を完全点対称な「田の字型」に組んだ架構体として二つ用意する。これらを各辺中点の梁を天然木合わせ柱で挟み込み、梁成と同じ
2200mmの隙間をもって空中に掲げあげることで、空間のコーナーが完全に外環境へと開放された矢倉状の構造体が形成される。
そして、線材というよりは既に壁体と呼ぶべき梁成2200mmの架構体は、ある種のスペースフレームとなって空間を内包しているが、この空間を上層に加えるか、あるいは下層に足すのかは任意である。つまり、縦/横/高さ、それぞれ2ディジットを持つ最小限の3次元行列が成立することになる。これを生かして、田の字の各升のスラブを梁の上端または下端、に設定し、天井や視線の高さ、囲まれ方や陰影の具合などを操作することで、既存の豊かな自然環境を居心地の良い住環境へと変性させることを意図した。
しかし、この空間構成の周辺環境への応答の自由度とは別に、構築物としての建築が完全にシンメトリーな秩序からなっていることに僕の関心はある。さまざまに移ろいゆく自然の流れの中にコトンと置かれた自律的な秩序。竣工し、世界の存在の一部となった後、その周りに発生するだろう環境の波や渦の具合がデザインの対象であるような気がしている。
ー
「GA houses 141」 2015年3月/A.D.A.EDITA Tokyo
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:826.23m2
建築面積:90.27m2
延床面積:275.85m2 階数:地上3階
構造:木造
principal use:Culture Center
site area:826.23m2
building area:90.27m2
total floor area:275.85m2 number of stories:3 stories
structure:wood frame
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
富士は、その優美な姿はもちろんのこと、それに加えて、無数の文化・芸術の創造の源泉となり、またそれを育んできた存在としての価値が高く評価され、世界文化遺産に登録されることになりました。
これを記念するセンターの計画に当たって、第一に、富士そのものにならいながらも、更に富士が生み出してきた関連文化のデザインに学び、これを再編集することで、万人にとって「新しく魅力的な空間・建築」を創りだします。こうすることで、富士の歴史・文化に深くつながりながら、その価値を広く未来に向かって発信する、不二なる「富士世界遺産センター」を実現したいと考えます。
ー
data:
主要用途:文化施設
敷地面積:7000m2
建築面積:4200m2
階数:地下1階 地上2階
構造:鉄骨造(一部木造)
principal use:Culture Center
site area:7000m2
building area:4200m2
number of stories:2 stories + 1 basement
structure:steel frame, partly wood frame
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
鉄のログハウス
「大壁」よりも「真壁」に、さらにその先に興味がある。
構造体をその内側に隠したプレーンな面である「大壁」は空間の「ガワ(側)」を示すだけの存在に控える事でその「空間性」を際立たせるが、「真壁」は建築を成り立たせる構造を表面に突出させる事で、「ガワ」として空間を指示するだけでなく、よく構築された物質が周囲に放つ「場所性」を住環境に重ねる事ができるからだ。
そして「真壁」を超えて、さらに強い場所性を生み出すもう一つの壁のあり方として「ログハウス」がある。その名の通りログハウスの壁面は構造である「丸太材(=ログ)」だけで構成されていて、その強い物性が濃密な「場所性」を発生させる。「ガワ」としてのプレーンな面のないログ壁面は、純粋な「空間」だけを表す「大壁」の対極に位置する、純粋な「場所」を表明する存在なのかもしれない(その中間にあるのが「真壁」なのだろう)。
東京都内の極めて一般的な新造分譲宅地の一画にある敷地に、夫婦二人のための住宅をデザインするにあたって我々が選択したのは、この「ログハウス」の形式である。ただし、丸太材ではなく大規模ビル建設等に用いられる700(1000)×350×16×25(32)mmという大断面H型鋼によるスチール製のログハウスだ。その巨大な重量・強度に加えて、ロール圧延によって成形されるH型鋼の工業製品ならではの数学的整形性とRのかかった入り隅部に現れる優しさといったH型鋼の「物質的性質」をログハウス状に組み上げ強化・増幅する事で、無個性な新造住宅地に、そこに積極的に住みたいと思える「場所性」を与える事を試みたのである。
それは丸太材が集積する通常のログハウスの荒々しく素朴な場所性とは異なった、理知的でありながら優しく強い、新造の都市域にふさわしい場所性の種子である。僕達は土地の新たな「よりしろ」となる事を、この鉄製のログハウスに求めたのだ。
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「住宅特集」 2014年9月/新建築社
「こわさない・こわされない」
日本では、社寺仏閣が建て替えられる際、そこで使用されていた柱や梁などの材料は「お下がり」として、他の建築物の材料として再利用されていく。社寺仏閣に限らず、この国の伝統的な木造建築では、材料は一世代の建築物で終わらずに、何世代もの建築物へと転用されリユースされていく。言い換えれば、材料は流通を続けるその一過程において、たまたま「ある建築の形」をとっているだけなのである。
その意味で、この伝統的な建築システムには廃材というものがない。限りなくゼロエミッションの理想に近い、破壊・廃棄という建築の原罪を解消する「未来の建築システム」だと言えるのではないか。
この伝統的な木造のシステムを、他の現代的な構造システムで展開できないかと考えた。今回は現代の主要な構造形式である鉄骨造を主題とした。通常、高層建築物で用いられるH型鋼(h700×w350)を校倉式に組み上げる事で、建築全体を構築している。ジョイントは簡易な高力ボルト接合なので、建設はもちろん解体まで、極めて少ない時間とエネルギーによって行う事が可能である。住居としての用途を終えた後は速やかに分解され、次の建築の一部として利用されていく。
伝統からの断絶を求めた近代以降、自然と建築は互いに「こわす・こわされる」という侵略闘争を続けてきた訳だけれど、そろそろ、その位相を越え出るべき時だろう。
「流転の中にある建築」、或は「終わらない建築」へ、向かおうと思う。
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2013年 「16th DOMANI・明日展」出展テキスト
鉄の器
「器(うつわ)」は、建築を学び始めた学生に対して、その「本質」について説明するとき、喩えに使われることの多いものの一つだろう。
たいていは「器の<本質>とは、ガラスや樹脂などの<物質>にあるのではなく、その<虚ろな部分>にある。なぜなら液体を満たすという器の目的は何もない<虚>の存在によって叶えられるからだ。」とされ、その後に「これは建築についても同様である。なぜなら建築の目的である用途が果たされるのは、鉄やガラスやコンクリートといった<物質>の部分ではなく、それらによって囲まれた<虚ろな部分>だからだ。すなわち、建築の本質とは<空間>である。」と続き、時には「であるから、<物質>などは瑣末な問題であって、これに捉われては<建築の本質>を見失うことになる」と継がれることもある。
「建築」とは、目に見える実体である「建築物」のことだと、世間一般と同じく信じてきたウブな学生にとっては、これはちょっとしたカルチャーショックだろう。こうした、少しアカデミックな香りのするインパクトによって「建築=空間」という教義は刷り込まれ、そしてめでたく建築学の入り口は開かれる、というわけである。
この「建築=空間」の大変分かりやすいたとえ話には、やはり、それなりの説得力があって、「うん、その通り」と同意しそうにもなるけれど、僕などは「それはどうかな?」と思い留まってしまう。たとえが「器」なのがいけない。「だって、同じ100ml入る「器」でも、ペカペカのプラコップで呑む日本酒と、たとえば黄瀬戸の茶碗*でいただくそれとでは、酒呑みの幸福は全く違うものだろう?」と、同じく酒呑みである僕はすぐに気づくのだ。であれば、建築だって同じことだろう。「空間」が同じでも、それが<何で><どのように>できているかで、人の受ける感覚はまったく異なる。つまり、「建築」は「空間(の構成)」と「物質(の構築)」の、その両方でできているわけだ。いや、もっと正確に、そして若干小難しく言えば、建築とは「<空間という本質>と<存在という実質>が重なり合った状態」のことで、それらが調和したり、せめぎ合ったりする、その関係の操作が建築におけるデザイン行為だと、僕は考えているのである。
(*数年前、ニューヨーク在住のある著名なギャラリストの自宅で日本酒をいただいたことがある。酒自体、上等なものだったと思うけれど、未だにその味わいの記憶が鮮明なのは、その器の印象によるところが大きい。手にしっとりと馴染む肌理と重さの、淡い黄土色の黄瀬戸の茶碗だった。これが他の器だったなら、特別な記憶として今蘇り、こうして題材にすることもなかったろう)。
さて、「鉄のログハウス」はプラコップではなくて、いわば黄瀬戸の茶碗だ。100m2に満たない小さな住空間は、巨大なH型の重量鉄骨(h700mm×w350mm×t25mm×t16mm、最上層はh1000mm×w350mm×t32mm×t16mmに変化する)を井桁に組むことで覆われている。このログハウスの形式は、構造を内側に隠蔽してしまう「大壁」の建築とは反対に、構造材を幾重にも積層しそれを露わすことで物性を濃縮しているが、それによって黄瀬戸の茶碗と同様に、物質固有の気配が空間に(実は都市空間にも)溶かしこまれることになるのである。今回の「気配」とは、H型鋼特有の丸みを帯びた入隅や汗をかいた馬の肌のような黒皮の表面にあらわれる「あたたかみ」、あるいはその圧倒的な質量による「存在の確かさ」だろうか。この作品で僕が欲しいと願ったのは、そんな濃密な実質の力場が、透明な空間の本質を、おだやかに抱擁しているような様相だったのかもしれない。言い替えれば、この住宅は「鉄の器」なのだ。
「空間」一辺倒で洗練されてきたモダンハウスに、建築が持っていた「実質の力」を取り戻したい。H型鋼に特有の「強さと共にあるあたたかみ」に、僕はその願いを託したのである。
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2016年 「LIXIL eye」 LIXIL
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:85.07m2
建築面積:35.86m2
延床面積:97.27m2
階数:地上3階
構造:鉄骨造
設計期間:2012年10月~2013年6月
工事期間:2014年3月~2014年7月
principal use:private house
site area:85.07m2
building area:35.86m2
total floor area:97.27m2
number of stories:3 story
structure:steel frame
design:2012.10 - 2013.6
construction:2014.3 - 2014.7
photo credit:
Koji Fujii, Nacasa&Partners Inc / 藤井 浩司
(ナカサアンドパートナーズ)
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
2つの構築・2つの構成
人口10万人程の北関東の地方都市に敷地はある。駅から徒歩5分程の立地だけれど、周囲は低層の商店や駐車場がほとんどで、そこに4・5層の商業ビルがまばらに建っている程度だ。いわゆる地方都市の漠然とした風景が、北関東特有の透明な青空の下に低く広がっているような地域である。この土地出身のクライアントは地域で最も高く評価されている美容師で、これまではテナントビルの一画で営業をしてきたが、更なる発展と、地域の永続的な文化拠点となることを願って、独立の美容室の設計を依頼してきた。
「新しくありながら、永続性を保つ存在としてデザインすること」、「周囲の日常的な風景からは閉じながら、上層の自然に対しては開くこと」等の、どこか相反する条件へと状況は解釈されていった。
用いた手法は「2つの構築」と「2つの構成」を重ね合わせることである。通常は1つの構築によって1つの空間の構成を実現する訳だけれど、それでは2つの「相反する問題」のセットに答えられない。構築と構成をそれぞれ2つずつ用意することで、その間の関係を複数化し、単純ではない問題に応えようと考えたのである。
具体的に我々がとった、新しく・永続的な構築の手法としては、都市木質化の追い風を受けて昨今伸展著しい大断面集成材を活かしたものだ。今や容易かつ安価に幅2m以上・厚み200mm以上の大断面材が手に入る状況にあって、木材は既に「線材」を超え出ている。天井高を一息に確保できるこのサイズが実現している今、木は「線材」というよりも、RC壁造と同等な「面材」もしくは「マス」と考えた方が適切な段階にある。そこでRC壁体とほぼ同厚の「木壁体」を用意し、それらを構築上、等価に扱うことを考えたのである。
まず2枚のRC壁体を、敷地周囲の極めて日常的な風景から距離をとり適度に閉じるためにクルリと敷地上に配することで、奥性があり包みこまれた空間を生み出す。その上に13mスパンを跨ぐ、ストレートに伸びた木壁体数列をストンと載せることで、北関東の透明な光と空気に対して開いた明るくヌケのいい空間を重ねたのである。このようにして「閉じつつ・開いた」、明るく自律した美容環境が発生することになった。
構築も構成も、それぞれ実に単純な操作しかしていない。この「手数の少なさ」と、構成と構築が2つずつ用意されそれらが重ね合わされることで発生する「現象の多様さ」、その比率・コンポジションがこの建築にある種独特な「質」を与えているのである。
構成だけでも、構築だけでもない、それらが掛け合わされたところに生じる「何か」に僕は興味がある。
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「新建築」 2014年3月/新建築社
data:
主要用途:美容院
敷地面積:493.56m2
建築面積:204.48m2
延床面積:193.39m2
階数:地上1階
構造:RC造
設計期間:2013年2月~2013年6月
工事期間:2013年8月~2014年1月
principal use:Salon
site area:493.56m2
building area:204.48m2
total floor area:193.39m2
number of stories:1 story
structure:reinforced concrete
design:2013.2 - 2013.6
construction:2013.8 - 2014.1
photo credit:
Akinobu Kawabe/ 川辺 明伸
東京の中心でニュートラルであること
商業建築というものは、そもそもニュートラルからほど遠い。周囲に抜きん出るために、大きな声で自社の商品を売り込むことが使命なのだから、それらは常にテンションの高いデザインである。その傾向は周囲と競合することで相乗的に高められるので、商業密度が濃い都心部に近づくにつれ、耳を塞ぎたくなる程に、デザインの「圧力」は高まってくる。その圧力に対して、知らず知らずのうちに自身の感度を絞り、或は閉ざすことで、固く身を守ろうとしているのが都市生活者の現実なのだろう。
一方、クライアントは自然派の化粧品ブランドである。様々なストレスから心身を解き放つことで、人が本来有している生命力を高め、それによって人為的ではない美しさを得るという考え方であり、そのコンセプトは「ニュートラル」である。
前述のような「圧力」の高い都市環境の只中にあって、いかに「ニュートラルな場」を実現し、人々の心身を世界に対して開いていくか、がテーマとなった。
先ず、都市の「圧力」をキャンセルする仕掛けとして、敷地角の3割近い面積をポケットパークという「建てない領域」として確保してしまった。そしてその「都市の空隙」に面するように各店舗を配置することで、都市の圧力から一歩引いた環境を獲得しようと試みたのである。建築的にもL字型のセメント質のスラブが三枚空中に浮かべられただけの極めて単純な形式をとり、余計なデザインの「声」が発生しないように配慮している。
建築に加えて、3店舗の内装を設計したが、それぞれのデザイン意図は共通している。それは建築と同じく表層的な大声のデザインの対極として、表層・下地の区分のない「ムクなる素材」で全体を構成するというものだ。具体的には、化粧品の原料でもある「化石珊瑚石」、生命を育む土壌としての「版築」、瑞々しい森を現す「ブナブロック」、これら3種のムク材を単なる仕上げ材としてではなく、大きなマスとして配することで、表層的な記号ではない、自然の世界そのものがもつ奥深く解像度の高い世界を立ち現すことを試みたのである。
そのような微細で豊かな世界は、デザインの圧力をゼロに近づけることで、感覚することが可能になったが、ここでもう一度、都市の視点にまで引いてみると、このニュートラルな世界は、むしろハイテンションな周囲の世界を「地」として、どのような大声のデザインよりも効果的な「図」として機能していることに気づく。そのような商業の「反転」は、今後の都市を好ましいあり方へと変えていく可能性を示しているように思う。
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「商店建築」 2013年12月/ 商店建築社
data:
主要用途:コスメティックショップ、
カフェ、スパ
敷地面積:434.37m2
建築面積:241.79m2
延床面積:691.95m2
階数:地上3階
構造:鉄骨造
設計期間:2012年12月~2013年8月
工事期間:2013年4月~2013年9月
業務:建築デザイン監修・内装設計監理
principal use:cosmetic shop, cafe, spa
site area:434.37m2
building area:241.79m2
total floor area:691.95m2
number of stories:3 story
structure:steel frame
design:2012.12 - 2013.8
construction:2013.4 - 2013.9<
scope of works:building design supervision・interior design &
construction supervising
photo credit:
Takahiro Igarashi / 五十嵐 隆裕
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
意図の埒内/埒外、その配分
端的に言ってしまえば、世界をある「意図」の元に整理していくことが建築デザインの本質だ。無秩序は取り除かれ、暗がりは明るく照らされて、ル・コルビュジエの言うところの「輝く都市」が世界を満たしていく訳だけれど、それがある臨界に達すると、今度は反転して、人は「意図の埒外」を求めはじめるようである。
そんな昨今の状況から、現在に残された意図の埒外の代表として戦後に自然発生しこれまで存続してきた「闇市」は、多くの大学研究室が調査対象にするなど、その価値が再評価されつつある。しかし、最近では下北沢の闇市が撤去されてしまったように、その将来は決して安泰ではない。
今回は、そんな闇市の代表的な存在でもある吉祥寺ハモニカ横丁を、レトロスペクティブな感傷に陥るのではなく、その意義を未来へと繋いでいくことを目的に起こされたプロジェクトである。「意図の埒外を設計する」、つまり「デザインしない/をデザインする」という、そもそも語義矛盾のようなことが求められた。具体的には三鷹にある元パチンコ店舗だったテナントビルの一階を、7店舗程の飲食店群からなる「新しい闇市」に変換するという試みである。
そこで、我々がとった方法は、以前「佐賀町アーカイブス」で試みた「トムとジェリー」手法の発展形である。各テナント店舗が、確かなデザイン意図によって仕上げられた「トムの空間」を作り出すと、その裏面に下地が露になった意図外の「ジェリーの居場所」が生まれてしまうという仕組みだ。佐賀町~と異なるのは、トム/ジェリーの関係が単一ではなく複数となり、その関係が多様になったことだろう。関係が複雑になることで、より一層デザインの一意性は弱められ、ジェリーの居場所は更に意図の束縛から自由になっていく。
人は純粋な「輝く都市」だけでは息がつけないし、全くの「闇市」だけでも生きてはいけない。健全な暮らしには、その明-暗の「配分」が重要なのだろう。意図の世界と対となって、意図の埒外の世界が発生するこの手法は、ある種、これからの都市を御していく為のモデルとならないかと考えている。
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「新建築」 2013年12月/新建築社
data:
主要用途:飲食店
延床面積:243.69m2 (改修面積)
階数:地上1階
構造:RC造
設計期間:2013年1月~2013年5月
工事期間:2013年6月~2013年7月
principal use:Restaurant
total floor area:243.69m2 (renovation area)
number of stories:1 story
structure:reinforced concrete
design:2013.1 - 2013.5
construction:2013.6 - 2013.7
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
未来に構える
都心から在来線で40分程の距離にあるこの地域は、東京を中心とした郊外開発の最外縁部である。緑地と農地からなる市街化調整区域が市街化区域へと転換されることで宅地化されつつあり、その風景は日々目まぐるしく変化している。都市として落ち着いた恒常状態へと収束するまでには、まだ10年(あるいはそれ以上)はかかるだろう。
遷移状態に特有の不調和や混乱は避けがたいが、だからといって収束するまでの短くない期間、耐えて暮らせというのも当たらない。遷移状態が常態化しているのはこの国の現実なのだから、短期的な解決を超えて、現状から未来へと切り結ぶような建築の形式はないかと考えた。
採用した建築的な操作は1つしかない。3m近い高低差のある斜面地形内に半ば埋もれた3層からなる直方体状のボリュームを、その短辺分だけシフトするというものだ。イタリックの「N」の様な形式は、将来にわたっても変わる事のない南側の里山へのビューを取り込み同時に大きなテラスを生み出しながら、今は駐車場や田畑として空地になってはいるが、近い将来、住宅が建て込んでくる事が予測される隣地からのオフセットを立体的にとる事で、将来的なプライバシーと採光を確保している。
未来の都市環境への「構え」として採用された形式は、単にパッシブな外部要因への応答としてだけではなく、自律的な空間展開をも生み出している。シフトによって発生した2層分の吹き抜け空間には、南側の居室群を内包するボリューム越しの自然光が、2階床や天井でバウンドしながら届くことで、そのボリュームによる隔たりと合わせて、騒然と発達する外部からの「奥性」を生み出し、住環境にケイブのような落ち着きを与えている。同時に「流動/滞留」の空間配分もまた、斜めにスラッシュする軸線によって規定され、幾何学上ちょうどくびれた部分が移動空間に、幅広な部分が滞留空間となり、直角に突き当たることのない動線がそれらを滑らかに接続することで、自然で変化のあるシークエンスが生活経験に仕込まれることにもなった。
プロジェクトの中で改めて気づいた事は、世界に「完成」などはない、という当たり前な事実だ。常に状況はシフトし続け、歪みも軋みも、消えることはない。しかし、だからといって「普遍なるもの」があり得ないと言う事もない。流れの中の砂州がなぜかその形状を保ち続けるように、時間を超えうる建築はあり得る。それはかつてのように、時間経過という要因を無視するのではなく、むしろ積極的に、その時間による「シフト」を認める事によって至る事のできる「新たな次元の普遍性」ではないかと、予感している。
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「住宅特集」 2014年2月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:638.37m2
建築面積:226.6m2
延床面積:303.95m2
階数:地下1階 地上2階
構造:RC造
設計期間:2011年1月~2012年3月
工事期間:2012年8月~2013年7月
principal use:private house
site area:638.37m2
building area:226.6m2
total floor area:303.95m2
number of stories:2 stories + 1 basement
structure:reinforced concrete
design:2011.1 - 2012.3
construction:2012.8 - 2013.7
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
海辺の街のパブリックスペース
瀬戸内海に面するこの地域は、里山がそのまま海面へと落ち込んでいくような地勢で、街は斜面にはりつくように広がっている。当然のように平場は限られていて、街の人々が集い催しを行うようなパブリックスペースが圧倒的に不足していた。求められた用途である造船会社の社宅機能に加えて、われわれが実現を試みたのは、崖上の斜面地という敷地状況を逆手に取って、建築によってパブリックスペースをつくり出し地域に開くことである。
具達的には、3層の居住ボリュームを半ば崖にオーバーハングするように配置し、瀬戸内の豊かな景観へと開けたその屋上を、高い位置にある北側背面の道路から、大階段を介して直接にアプローチ可能な「十分な広さを持ったパブリックスペース」として地域に開放したのである。
「船殻」的構造形式
特徴的な崖上に大きく跳ね出されたキャンチレバーは、最大限大きな屋上広場を生み出すことと、脆弱な崖地に応力が伝達されないよう、杭を崖端から必要なだけオフセットすることで導きだされた形式だが、これを可能にしたのは3層に跨がる連続構造壁面と、跳ね出しの反対側でカウンターウェイトとして作用するタワー棟の存在である。
3階高分(=約10m)の梁成と見做すことのできる3枚の主要な構造壁面と、これに直角に@6000mmで反復される短手方向の構造壁面に4枚のスラブ面が升目状に組み合わされることで、全体としては大型船舶の構造形式である「船殻構造」のような合理的な構造体が形成され、経済的にもリーズナブルな建築として成立することになった。
地域と繋ぐ
広場に穿たれたふたつのライトコートは、そこを降りる事で各住戸へと向かっていく移動空間でもある。面積的に高効率な形式とはいえ、陰湿になりがちな中廊下にはこのふたつのライトコートが光と風を届け、同時に各住戸の光・通風環境を大幅に改善してもいる。
大階段、スロープ、ふたつのライトコート内のコールテン鋼製の階段(塩害に備えて金物は全てニッケル含有のコールテン鋼露しとしている)、それらが面する中廊下というように、導線はコンクリートの塊のような建築をさまざまに取り巻きながらシークエンシャルに展開し、それはそのまま地域の導線に接続されることで、社宅内の住戸群は街から乖離せず、むしろ街の一部として地域に連続することも成功している。
未来のランドスケープとして
以上に一部挙げたように、自然や社会の多種多様な要求に応えながらも、それらの「均衡の形」として決定された建築は、できてしまえば複雑な背景条件などは感じさせない、きわめて明瞭かつ単純な「自律した姿」として立ち現れた。
L字型のコンクリートの量塊は、進水式を待つ巨大な船舶のようでもあり、「瀬戸内海という大空間」のアウトラインを規定しているようでもある。いずれ建築家の意図は消え去り、さまざまに見立てられ語られる新たな「瀬戸内のランドスケープ」として、地域に引き継がれていくことになるのだろう。
それこそが私たちの意図であり、希望でもある。
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「新建築」 2013年8月/新建築社
data:
主要用途:社宅
敷地面積:1934.84m2
建築面積:1098.38m2
延床面積:3095.74m2
階数:地上8階
構造:RC造
設計期間:2010年10月~2011年8月
工事期間:2011年10月~2013年3月
principal use:company house
site area:1934.84m2
building area:1098.38m2
total floor area:3095.74m2
number of stories:8 story
structure:reinforced concrete
design:2010.10 - 2011.8
construction:2011.10 - 2013.3
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
動詞の建築
「建築」は「動詞」だと考えているところがある。
もちろん通常通り、それは「建築」という概念を指す「名詞」でもあるのだけれど、それだけでは「建て」「築く」という動詞性、つまり建築が本来もっている「行為」としての意味合いが抜け落ちてしまうようで、違和感があるのだ。
それは、デザインにおいても同じことで、「建て築かれた」構築物としての建築の現れや、それに伴う初源的な情動を、そのまま居住環境に残しておきたいと願っているので、組み上げられた構造体を仕上げの裏側に隠蔽してしまう「大壁」よりも、「建て築かれた」という事実がそのまま空間に現れ出る「真壁」とすることが多くなってしまう。そうすることで「建築」本来の「動詞性」を保持しようとしているのである。
この「母の家」もまた、「動詞の建築」である。6m×6mの正方形平面を、4組の唐松集成材による上り梁を面外方向の力に対して高率よく抵抗する「ラメラ状」に組み上げることで、無柱空間として成立させているが、それら主たる柱も梁も、真壁的にそのまま空間に現され、その構築的な「成り立ち」を率直に表明している。
また、ラメラ架構はその幾何学の性質状、方形屋根のように一点に収束せず、屋根頂部にはトップライトが生みだされ、ランプシェード状の天井形状(=架構形状)によって一日中穏やかな採光を確保すると共に、その煙突効果によって稠密住宅地においても快適で充分な自然換気を可能にしている。一方では、空間の「流動/滞留」の配分をも、この中心点に収束しない軸組が塩梅よく決定し、小さいながらもシークエンシャルかつ落ち着いた居住環境を実現させることにもなった。
今回は初めて、工務店を介さずに、直接大工の棟梁に発注する契約形態を取ったため、我々は半ば現場監督のような立場で、直に各職人と接し、深く関わることになった。このこともまた「建て築く」という建築の動詞性が、建築の結果に反映される良い契機になったようだ。いやむしろ、建築に「結果」など無かったのかもしれない。「建築を組み上げる」というダイナミズムは、隠蔽されることなく建築に表明されることで、自然に「生活」のダイナミズムを呼び込み、継ぎ目無く「行為」は連続してしまったからだ。その意味で「動詞の建築」には「完成」が無い。それは連綿と繋がっていく行為の連続体であり、「終わらない建築」なのである。
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「住宅特集」2013年9月/新建築社
母の家
気がつけば「真壁」の建築ばかり設計している。構造を背後に隠した「大壁」の方が抽象的な空間を「表現」するには適しているのだろうけれど、なんだかそれでは建築の半分しか扱っていないようで、落ちつかない。
建築は「空間」であるのと同時に、構築された「存在」でもある。僕がデザインの対象として意識しているのは、よく「構成」された「空間」と、よく「構築」された「存在」の周囲に広がる「場所」の重なった状態、つまり統合的な「環境」なのだろう。
その意味で、「空間」を操作し、かつ、構造体という強い存在が現れ出る事で「場所」をも扱うことのできる「真壁」の手法は都合がよく、しばしば用いる訳である。
この原田麻魚の母の家もまた、「真壁」による建築である。120×550mmという大断面集成材からなる柱~梁4対をラメラ状に組み上げる事で、6m角の正方形平面を無柱で成立させている(それらの構造体は全て仕上げの表面から空間に凸上に「現れて」いる)。通常の方形屋根のように中心へと収束しない幾何学の性質上、中心部には通風と採光のためのトップライトが生まれ、また、構造に合わせて平面的にも少しずれた対角線が空間構成上の偏りを生み出し、居住に必要な「滞留」と「流動」の性格が環境に付与される事にもなっている。
存在の構築と空間の構成が、「真壁」という手法によって同時に解決される事で、単なるオブジェクトではなく、また、単なる「家」という記号でもない、字面通りの意味での「実家」となったように思っている。
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「住宅特集」2013年9月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:74.30m2
建築面積:36.00m2
延床面積:72.00m2
階数:地上2階
構造:木造
設計期間:2011年3月~2012年4月
工事期間:2012年5月~2013年1月
principal use:private residence
site area:74.30m2
building area:36.00m2
total floor area:72.00m2
number of stories:2 story
structure:wood frame
design:2011.3 - 2012.4
construction:2012.5 - 2013.1
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
開いた秩序がもたらす空間の流動性と滞留性
真鶴半島の付け根近く、南へ向かって下っていく丘陵地が、いったん勾配を緩める肩のような地形上に敷地はある。周囲を取りかこむ広葉樹を中心とした雑木林の向こうには、太平洋がおおきく静かに広がっている。ここに家族とその友人達が週末を過ごすゲストハウスを、というのが施主の希望だった。
その豊かな自然環境の中での建築に際して、都市型の生真面目で自己完結的な秩序の導入は相応しくないように思えた。参考になったのは施主の趣味だというビーチコーミングの考え方である。浜辺に打ち上げられた様々な素材を、それらの性質や声を良く聞き取ることで、材がなりたい形に整えるように立体を組み上げていく。この時、秩序は絶対的な支配者というよりも、材や環境との関係によって次々に変容する動的でしなやかな存在である。求めるのはそのような「開かれた秩序」のあり方である。
具体的には、@900mmで連なる38mm厚のLVLの柱-梁架構群を、太鼓に落とされた天然木の桁-柱架構で受けることで成立する「L字型の壁-屋根」の単位をつくる。これを大・中・小、3つのスケールで用意して、それぞれが内外に高さの異なるテラスや不整形なコーナーを各所に生み出すように、半ば互いに乗り合った関係を保って配置した。その位置・角度は、厳格な幾何学で概念的に決定するというよりは、自然地形のコンタラインや海への視線、既存樹木やその枝振りといった周囲の自然環境や、材の量感や肌理・密度といった物質の声、また空間の流動性と滞留性の配分といった様々な具体的な尺度から、それらが互いに調和した関係になるように調整的に定められている。
でき上がった住環境には、厳格な秩序が一意に支配する怜悧な硬質さこそないが、そこにある全ての要素が、一連の「対話関係」の中にあるような、緊密な「調和」が生まれている。この対話関係は、建築に用いられた秩序自体が環境に由来した開かれた性格をもっているため、海・森・地形といった周囲の自然までをもとり込んで、境界なく広がっていく。この、世界と一繋がりの「おおらかな調和」の中に身を置く経験こそが、我々のデザインの目的であったようだ。
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「住宅特集」2013年5月/新建築社
data:
主要用途:週末住居
敷地面積:998.56m2
建築面積:243.84m2
延床面積:298.15m2
階数:地上2階
構造:木造
設計期間:2010年11月~2011年12月
工事期間:2012年1月~2012年12月
principal use:weekend house
site area:998.56m2
building area:243.84m2
total floor area:298.15m2
number of stories:2 story
structure:wood frame
design:2010.11 - 2011.12
construction:2012.1 - 2012.12
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
福島県の会津地方に古くから伝わる縁起物・郷土玩具である「起き上がり小法師」と「赤べこ」。
これらは、木材や粘土で作られた型に紙を貼付けて成形していく「張子」の造形技法によって作られています。
紙でできているので非常に軽く、中に重りを仕込むことによって独特の動きが生み出されます。
何度転んでも立ち上がる「起き上がり小法師」と、頭を上下左右に揺らす愛嬌のある「赤べこ」は、
その動きに因んで、「七転八起」や「無病息災」のシンボルとされています。
2つの縁起物・郷土玩具からヒントを得て、これからの日本を応援するボールペンを作ります。
スックと自立するため省スペースで、ユラユラと揺れて机の上で楽しい風景を演出してくれます。
また、一早く揺れを知らせる地震計としても機能するでしょう。
このように縁起が良く賢いペンですので、日本のお土産として喜ばれるのではないでしょうか。
data:
主要用途:ボールペン
寸法:H140xW30
設計期間:2011年11月~2012年1月
デザイン監修:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
企画販売:EJP
製作:株式会社デコ屋敷大黒屋
principal use:ballpoint pen
size:H140xW30
design:2011.11 - 2012.1
design and supervision:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
produce, sell:EJP
construct:Dekoyashiki Daikokuya
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
会津の桐と桐箪笥。国内で最も高いその品質によって有名な「会津桐」と、これを使って伝来の精緻な職人技で制作される「会津桐箪笥」は、たとえば嫁入り道具の代表であるように、最高の祝いの気持ちを表す「めでたい贈り物」として、この国では長らく親しまれてきました。
優れた吸湿性や軽量さに加えて、古くなってもカンナを当てれば再び白い木肌を取り戻すという桐材の性質は、「一生モノ」である嫁入り道具に最適だったのでしょう。しかし、核家族化による住宅の小規模化や頻繁な転居、人々の着物離れなど、生活様式の変化に伴って、その需要は減少しつつありました。そこに3.11東日本大震災です。このままでは、この優れた技術と文化が失われてしまうかもしれません。
私たちが提案するのは、一般的な衣装函サイズのユニット「キリハコ」からなる、可変性のある新しい桐ダンスです。吸湿性や軽量さなど優れた桐の特質はそのままに、現在の衣服に適したモデュールと、引っ越しや独立などによる家族や生活の変化に容易に適応できるユニットシステムを採用することで、「これからの一生モノ」となりうる新・会津桐ダンス「キリハコ」を実現しました。
「大切につくられたもの」を「大切に使い続けること」の幸せさや豊かさを、生涯使い続けられることを前提としてつくられてきた「会津桐ダンス」の伝統は有しています。
そこには「時間を超えていく普遍性」があるかのようです。
私たちが歴史ある「会津桐ダンス」を新しくデザインすることで、学びとり、明らかにしたかったことは、その哲学なのかもしれません。
data:
主要用途:タンス
寸法:
A type:W450xD600xH240
B type:W450xD600xH120
設計期間:2011年11月~2011年12月
デザイン監修:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
企画販売:EJP
製作:福島県大沼郡 会津桐タンス株式会社
principal use:drawer
size:
A type:W450xD600xH240
B type:W450xD600xH120
design:2011.11 - 2011.12
design and supervision:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
produce, sell:EJP
construct:Aizukiritansu Corporation.
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
世界中にありながら、それぞれ全て豊かに異なっている「土」。
生命にとって最も根源的な素材である「土」がもつ、グローバルでありながら、同時にローカルそのものである存在は、3rd
burgerの哲学と共鳴する。
この「実り」をもたらす「土の存在」をデザインコンセプトの中心に据えて、店舗デザインは進められた。
data:
主要用途:飲食店舗
敷地面積:-
建築面積:-
延床面積:174.76m2
階数:地上1階
構造:-
設計期間:2012年9月~2012年11月
工事期間:2012年11月~2012年12月
principal use:restaurant
site area:-
building area:-
total floor area:174.76m2
number of stories:1 story
structure:-
design:2012.9 - 2012.11
construction:2012.11 - 2012.12
photo credit:
Nacasa & Partners / ナカサ&パートナーズ
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
土地の構造
箱根の山々と小田原の平野部の交わる辺り、その山側に敷地はある。
以前は果樹が植えられていた明るい里山中腹の緩く傾斜する土地で、南側の遠方には相模湾を望み見晴らしがよいが、北風からは、背後の山が敷地を抱くようにして、これを遮ってくれている。周囲に茂る落葉性の広葉樹林は、夏には涼しい葉影を作り、冬には自ら葉を落として少ない日光を地面にまで届け、山の水気を含んだ土を暖めている。そんな、人の居住に適した環境特性が、しずかに見つけられるのを待っているような敷地だった。
ここで建築家がやるべきことは、「家」を成立させる為に、「土地」に由来しない原理を新たに持ち込むのではなく、既に「土地」が持っている潜在的な「居住のポテンシャル」を引き出し、人の「住処」として十分な程度に、これを整理し増幅することであると考えた。つまり、そこにある「土地」が、全てを秩序づけているような状態として、建築を構成することを目指したのである。
そこで我々は、フレームを立て、屋根を架ける、という建築の最も根源的な要素にまでデザイン上の操作を還元し、これらの決定を「土地に委ねる」ことにした。
具体的には2組の全長12m程の門型フレームセットが用意され、これを緩くカーブする土地形状が要求する通りに、若干の角度を保って重ねて配置することで、中間スパンにトラスを持つ架構体が形成された。フレームはLVL-38×286mmでできているが、弱軸方向への水平力は天井面に形成されるトラス剛面で背後のコアにまで効率よく伝達されるため、その極薄のプロポーションで成立している(中間の梁の交点は6.3mという大スパンでの梁たわみを抑制してもいる)。また、このフィン状の柱は間に棚板を挟むことで半透過の仕切りとして空間を穏やかに分節してもいる。
更に、各梁はこの土地に降る雨量を壁面外へと捌くに十分な勾配を持った屋根を受ける為、それぞれ南から北へ順に下っていくので、高さ方向の変化がおこり、地形がもたらす平面的な角度と併せて、複合的な住行為が必要とする「偏り」が空間に付与されることになった。
以上のように、地形と雨量という土地の特性が、この建築に特別な「ジオメトリ」を与え、これが構造・空間を同時に決定し、また調和さしめている。
その語源通り、土地(=geo)を、詳しく測る(=metria)ことで、建築の秩序(=geometry)が定められる場合、当然ながら、これによって生み出される建築は、明晰な秩序を持ちながらも、同時に土地との連続性を保持することになる。
「土地をよく観察し、そこに潜在するジオメトリを見出すこと」
これが我々が行なったデザイン行為の本質であり、ほとんど全てと言っていい。
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「住宅特集」2012年4月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:429.40m2
建築面積:123.95m2
延床面積:155.66m2
階数:地上1階 地下1階
構造:木造 (一部RC造)
設計期間:2010年1月~2011年3月
工事期間:2011年4月~2011年12月
principal use:private residence
site area:429.40m2
building area:123.95m2
total floor area:155.66m2
number of stories:1 story, 1 basement
structure:wood frame, partly reinforced concrete
design:2010.1 - 2011.3
construction:2011.4 - 2011.12
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
「商業」を「都市空間」へと転舵する
計画地のセンター北駅周辺エリアは、若いファミリー層の人口が増え続ける新興郊外都市の中心地である。その伸びゆく購買力を狙った複数の巨大商業施設が点在することで、郊外特有の都市景観が形成されているが、これら多くの誘引施設の存在に加え、積極的な都市計画がなされ若く活力のある人々が多く住まっているにも関わらず、なぜか現実の都市/都市空間として十分に魅力的、とは言い難い状況だった。
これは、意欲的な都市計画によって複数の広場や歩行空間が用意されているのに、都市を形成する多くの大規模商業施設が内に閉じ、これらのパブリックスペースと積極的に関わろうとしていない事に要因がある。客を施設内に囲いこみ消費行為を内部で完結させてしまう戦略は全国的に定石化しているが、多くの郊外都市でも見られるように、それでは都市空間がすたれてしまう。対照的に国内外の長い歴史を経た都市に数多く存在してきた商店群は都市空間に対して開き、関わりを強める事で商いを成り立たせてきた。商業が都市空間の魅力形成に寄与し、都市空間が魅力的になることで商業もまた繁盛するという正の「循環」がそこでは保たれている。
我々が設計対象として意識したのは、この「循環」であり、また「都市空間」そのものである。
そこで用意したのは「4つのハコを互い違いに積み重ね、これを透明なガラススキンでラフに覆う」という、単純な「構成」である。この「構成」によって従来の「外/内」という対立の図式が「ハコ外・外部」/「ハコ外・内部」/「ハコ内・外部」/「ハコ内・内部」という内外が入り交じった関係へと細分化され、都市と建築が滑らかに連続する事になった。たとえば、異なるレベルにある2つの既存パブリックスペースの「シンボル広場」や「噴水広場」は、ハコ下の軒先的な中間領域によって商業空間と密接に関係づけられ、テナントで買ったパイを広場の段差に腰掛けて食べているカップルがいたり、それを眺めながらカフェで寛ぐといったような相互関係が数多く生み出され、それぞれの活用の度合いは相乗的に高められている。また、そういった2つのグランドレベルの賑わいは全層を吹き抜けるアトリウムを介して上層階にまで伝えられ、ガラススキンによって外部に開かれた景観や、都市を見下ろすハコ上のテラスの効果等と合わせて、上層階においても都市と商業空間は強く関係づけられている。更に3階レベルでは隣接する駅と背後の大規模商業施設をつなぐ「公共歩廊」を取り込むことで、都市との一体性はより強められた。
これからの商業建築は内部のみを充実する事以上に、都市空間をいかに持続的に魅力あるものとして計画し、取り込めるかに、その成功が掛かっている。いやむしろ、「時間的な連続体」である「都市空間」の「部分」として、それぞれの建築を捉え直す必要があるのだろう。
そのためには従来のような「表層」の操作だけでは不足である。今回は「表層」を越え出て、都市を含んだ「構成」にまで踏み込む事ができたが、更にはその先の適切な「構築」にまで到る事で、より永続的な都市の価値へと近づく事ができるだろう。今回はそこへ向かう、第1歩だと考えている。
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「新建築」 2012年6月/新建築社
data:
主要用途:商業施設
敷地面積:1335m2
建築面積:1145.8m2
延床面積:7187.1m2
階数:地下1階 地上8階v 構造:鉄骨造(一部SRC造)
設計期間:2008年1月~2009年11月
工事期間:2010年2月~2011年11月
業務:基本構想・基本設計・実施設計
principal use:tenant building
site area:1335m2
building area:1145.8m2
total floor area:7187.1m2
number of stories:8 story + 1 basement
structure:steel frame,partly steel reinforced concrete
design:2008.1 - 2009.11
construction:2010.2 - 2011.11
scope of works:
schematic architectural design,
developed design proposal,
construction documents
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
新しい地形
途中2度程クランクした、南北に50m、幅4~5m程の細長い敷地。県庁所在地でもある地方都市の中心部に位置していて、周囲は高容積な防火地域であることから、中高層の鉄筋コンクリート造の建築物がひしめき合っている。背の高いマンションに挟まれた敷地はまるで深山の谷筋のようであった。僕たちが試みたのは既存都市をランドスケープとして認め、その地勢的特性を建築によって強め、実現する環境への「質的効果」へと転換することであった。
採用したデザイン上の操作は単純である。高・中・低と異なる高さを持つ3筋のタフな鉄筋コンクリート造の壁体を、敷地の谷あいとしての属性を強め、なおかつ永続的に居住に適した地形となるように、変形した地型(チガタ)に沿って、互いに貫入しあうように配置した。騒音や視線から暮らしの領域を守り、上空からの限られた光を大きく受けとる「新しい地形」としての半永続的な構造物である。
この操作によって生まれた3つの南北に長い空隙は、内面を白左官で仕上げ区画されることで空間化され、真中の空間を薄く水を張った光庭、その両側の空間を居室とした。しかし、構成上、これらの空間は完結せず、その端部において「ほつれ」ている。この「ほつれ」によって、3つの実空間に跨がるようにこれらをリエゾンする2つの虚空間が発生し、この知覚上の広がりが敷地の特性上生まれてしまう実空間の幅の狭さを解決している。また、境界を跨ぎながら重複しあう空間は谷筋を分け入るような、シークエンスの多様な展開を実現することになった。
さらに空間端部の「ほつれ」は、仕上げの裏側のコンクリートの量塊という強い「物性」を「空間」に介入させる。この「物性」を中心としてコンタ状に広がる「場所」が「空間」にオーバーレイすることになり、ニュートラルな空間だけでは生まれない機能を誘導する環境の「偏り」や、居住者の安心や愛着といった心理的な定位をもたらすことになるだろう。「ほつれ」は敷地や建築の内/外境界に適度な撹拌を起こし、空気や気配の交換を発生させてもいる。都市に対して自閉症的に内に閉じないおおらかな建築のあり方もまたこの「ほつれ」によるものだ。
竣工から一月程経って、撮影のために朝からお邪魔していたら、中庭の水面に野鳥が水浴びに来ていた。
鳥から見れば、人工物である建築も、その辺の岩山や谷川と変わりないのだろう。ただ、そこが良い場所かどうか、ということが重要なのだ。それは、同じく生き物である人にとっても同様に大切なことである。本質を人間の認識に置く「空間」は文化の変遷によってその意味を変えてしまうかもしれないが、良き「場所」は生命体である我々の身体が変わらない限り、時間をこえていく普遍性を持っている。僕たちが実現したかったのは空間であるのと同時に、そのような「生活をアフォードする場所」としての、「新しい都市の地形」なのだと、このとき気がついた。
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「住宅特集」 2011年9月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:366.01m2
建築面積:183.41m2
延床面積:241.02m2
階数:地上2階
構造:RC造
設計期間:2009年4月~2010年4月
工事期間:2010年5月~2011年5月
principal use:private residence
site area:366.01m2
building area:183.41m2
total floor area:241.02m2
number of stories:2 story
structure:reinforced concrete
design:2009.4 - 2010.4
construction:2010.5 - 2011.5
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
トムの空間/ジェリーの居場所
施主である小池一子氏が「佐賀町エキジビットスペース」(2002年閉館)の活動の中で蓄積してきたアート作品を収蔵・再展示するためのスペースの計画.研究室で計画および施工を行い,MOUNT
FUJI ARCHITECTS
STUDIOが監修を行った。今回のようなリノベーション作業の中で,壁や天井等を調べ,あるいは撤去したりしていると,私たちが日常どれだけ「仕上げ」に囲まれた生活をしているかに気付く。
「仕上げ」は単なるモノの「空隙」を,そこに室名を与え慣例に沿ったそれらしい見え方に整えることで用途を持った「空間」へと転換する。慣習的な日常を指示し保証する「記号」としての役割を「仕上げ」は持っているのだ。しかし,通常は仕上げの裏側に隠されている構造体や下地のむき出しの素材などからなる記号の介在しない世界には,ラフではあっても正直で透明な空気がある。そこには前もって記号によって規定された慣習的な安定がない代わりに,自ら意味を見つけ出し主体的に解釈する自由がある。古いアニメ「トムとジェリー」に出てくるネズミのジェリーはそんな仕上げの裏側の世界を住処としているが,仕上げに囲まれて暮らしている飼い猫のトムに比べて,なんとイキイキとして,機智に富んでいることだろうか。実はトムはジェリーを羨んでいるが,それは社会がアートを必要とする感情と同質だろう。
アートには意味機構であるヒト社会に,意味の外部世界からの生命力を接続し駆動力を与えるという役割があるが,われわれはそんなアートのあり方をサポートする環境の実現を目指した。つまり,トムの空間とジェリーの居場所の同時での実現である。具体的な操作はきわめて単純だ。通常は数センチしかない躯体と仕上げの空隙を数メートルにまで拡大することで,ジェリーの展示室(室A)を生み出す。そこは仕上げの裏側の世界なので,既存の仕上げすべて丁寧に除去されている。同時に,廊下から連続する壁面を凹ませることで,主には収蔵庫であり時にはホワイトボックスの展示室としても使われる室Bをつくり出す。廊下側から見れば,ガラスで仕切られて入る事のできない、仕上げられた「廊下の凹み」である。
ふたつの異なる性質を持つ室「トムの空間」と「ジェリーの居場所」は「大扉」によって,隔てられ,また繋げられている。それはアートが意味の外部世界と記号的なヒト社会の隔たりを行き来しつつ接続するのと同様に,である。
常に新たなアートが産出され続けてきた「佐賀町」にふさわしい環境が実現されたのではないかと感じている。
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「新建築」 2011年2月/新建築社
data:
主要用途:ギャラリー
延床面積:37.08m2
構造:木造
設計期間 2010年5月~2010年6月
工事期間 2010年6月~2010年8月
監修:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
設計施工:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO +
芝浦工業大学 原田真宏研究室
principal use:gallery
total floor area:37.08m2
structure:wood
design:2010.5 - 2010.6
construction:2010.6 - 2010.8
supervision:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
design and construction:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO +
Harada Masahiro Studio / Shibaura Institute of Technology
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
“小ささ”を“近さ”と読み替える
都内でも比較的細かな地割りの続く密集度の高い住宅地。それを更にもう一段分割して分譲された敷地は、当然、それなりの“小ささ”である。旗竿型という、整形ではないこのタイプの地型では、面積に比べて周長が長くなるため、隣家や隣地の植栽などが間近に迫ってくる事になるが、地域固有のスケールの小さな肌理からか、圧迫感というよりは、こまごまとしたモノ達が寄り添い合っているような、程よい親密さを感じさせる近接性とも受け取れた。
“小さい”と言ってしまえばそれまでだが、“近い”と言うと、それは建築的な恵みに変わる可能性が生まれてくる。この“小ささ”を“近さ”へと読み替えることで生まれる価値を求め計画を行った。
施主夫婦の職業上、また建蔽率の消化を目的として、建築は2つの小さなボリュームへと分割され、間に中庭を挟みこむ構成をとっている*1。ボリューム間の距離が“近い”ため、庭は完全な外部というよりも、2つの室内空間をつなげる半ば内部のような延長された空間として意識される。
また、それぞれのボリュームは、厚さ30mmの唐松の集成材からなる柱-梁架構を@450mmの近接した間隔で並べることで形成されているが、この架構間の距離の“近さ”が建築全体の“間合い”を規定している。これは建築というよりは家具やプロダクトに近い間合い*2である。使用される材も、そのような近い間合いで人と対峙することから仕上げの具合は決定され、唐松集成材も針葉樹MDFもモルタルも、ほぼ同程度のピーチスキン状の微細な肌理へと調整され、このスケール故に可能になるプロダクトレベルの精度によって施工された。通常の建築では意識できない程の解像度の高い世界が、建築に空間の広がりとは異なる次元の“奥行き”を与えることになった。
“小ささ”を“近さ”と読み替え、これを突き詰めることで、住宅は建築の領域を越え出てプロダクツの世界へと繋がってしまった。そういう意味では「住宅に“近い”なにものか」としてnear
houseは存在し初めているのかもしれない。
(*1.建築可能な敷地部分は“旗竿”の“旗”部分と、パーキングとするために多少巾が広くとられた“竿のグリップ”にあたる部分だけであった)
(*2.例えば一般的なカラーボックスは巾450mmで材厚は15mmである。Near
Houseはこれを並べたものに等しい)
「小さな建築」と「大きなプロダクト」の間
柱-梁架構を@450mmという細やかなピッチで反復しているため、主要構造材である唐松の集成材は厚さ30mmと、木製家具程度のスケールにおさまっている。よって各部材は非常に軽く、ハンドリングにクレーン等の重機を必要としないため、主要構造体でありながらもそれらは「手の精度」によって扱われる事が可能になる。それより軽い他の部位は、当然手作業で製作されるので、建築全体がプロダクトの精度で実現され得ることになる。
唐松集成材は全数検査を行いその強度を確認しているが、これは木造建築でありながらもすべての部位を計算によって把握し、ムダや不合理がない状態として適切に設定するためである。ジョイント部も、同じ目的から、発現強度の保証された金属ダボと樹脂の組み合わせによる接合金物(ホームコネクタ)を用い、建築全体を明瞭な理解の元に置くことを意図している。各部は建築の慣習的なボキャブラリーに依らず、単純に機能的・合理的な美学に沿って決定されたのであるが、その結果、その小さなスケールと併せて、建築はよりプロダクトに近づくことになった。
「小さな建築」と「大きなプロダクト」の中間に位置する住宅である。
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「住宅特集」 2010年7月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:66.42m2
建築面積:37.65m2
延床面積:75.30m2
階数:地上2階
構造:木造
設計期間 2008年9月~2009年4月
工事期間 2009年7月~2010年2月
principal use:private residence
site area:66.42m2
building area:37.65m2
total floor area:75.30m2
number of stories:2 story
structure:wood frame
design:2008.9 - 2009.4
construction:2009.7 - 2010.2
photo credit:
Shigeo Ogawa / 小川 重雄
冬には雪ひら、春には桜の花弁、夏には木漏れ日、秋には木の葉。
いつも何かが、舞い散っている十和田の透明な空気の中に、
同じく舞い散りながら、しかしその一瞬を固定するように、
ステンレス製の折れ板/ベンチをパラパラと設える。
折れ板の表面は鏡面にまで磨き込まれているので、空気中を舞い散る様々な切片が映しこまれ、
例えば春には桜の中を浮遊するような特別な経験がうまれる事でしょう。
in flakes:固定されることのない世界を愛しむベンチ群。
data:
主要用途:ストリートファニチャー
作品サイズ:1350 × 330 × 45cm
所蔵:Arts Towada
設計期間 2008年9月~2009年10月
工事期間 2009年10月~2010年3月
principal use:street furniture
dimensions:1350 × 330 × 45cm
own:Arts Towada
design:2008.9 - 2009.10
manufacture:2009.10 - 2010.3
photo credit:
Sadao Hotta / 堀田 貞雄
Kuniya Oyamada / 小山田 邦哉
白の質量
南方に太平洋を見下ろす伊豆山の中腹に敷地はある。
西側と北側をナラや山桜等の落葉広葉樹からなる天然林に囲まれ、豊かな自然環境に恵まれているが、ほとんど地山の地形そのままで、建築に十分な平場は見当たらない。
ただ、敷地内を南北に縦断する尾根線から少し東に降りた肩状の部分に、仄かに建築の兆しが認められた。
用途は週末住居。
通常のように建築に合わせて複雑な自然地形を造成し単純化する手法も、逆に地形に合わせて建築の方を複雑にする手法もここでは採っていない。
複雑で多様な自然はそのままに、しかも建築は単純且つ純粋に自律した状態を求めた。
どんな自然にも潜在している純粋形式の顕在化、言い換えれば「自然の抽象」ということである。
具体的には建築は厳密な直角を保って重ねられた「2本の白大理石製の直方体」として実現した。
個室群と浴室を内包する下側の直方体は、敷地に当初から存在していたわずかな平場にその半身をはみ出すように設置され、サロンと厨房をもつ上側の直方体はその上と尾根地形に跨がるように置かれている。
偏芯した「十」字形が自然地形にそっと留められている、と言えば正確だろうか。
十字は一方の軸を南の太平洋へ、他方は西のナラに少し白樺の混じる森林へと向けていて、下段の直方体内の空間とその上面であるテラスは海と広大な空へと開かれ、上段の空間は自然林の奥へと静かに分け入っていく。
重なり合う十字の形式は、東側の車道やリゾートマンションを視界から遮り、また下側の直方体のプライベートな性格の空間と上側の直方体のパブリックな性格の空間を干渉させずに分け隔てている。
また、起伏のある地形上に平滑な立体が置かれているので設地面は極めて狭く、その結果、基礎と地形の改変ボリュームを最小化している点も、この形式のもつ特徴によるものである。
以上のように、自然環境から見出された「十」字形という「形式」は多くの「解決」を計画に与えてくれたが、同時に「解決」に留まらない新しい環境の質を生み出したのは、「形式」ではないもう一方の建築要素である「質量」によるものである。
通常建築で使われる「白」は「質量」を拒絶し、純粋に「形式」の意味を表現する為に用いられてきたが、ここでは厚みと研磨による肌理と反射が厳密にコントロールされた白大理石として、むしろ「質量」の存在を積極的に表明している。
それは、質量の加算された白、である。
既存の多様な質の連なりである自然環境の中に
質量の加算された白
が新たな質として加わることで、形式の操作だけでは実現し得ない、実環境の質のゲシュタルト変容が行われたのであり、それこそが今回デザインの対象として意識されたものである。
形式の操作に留まらない建築の領域が我々の関心の対象となってきている。
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「住宅特集」 2009年12月/新建築社
data:
主要用途:週末住居
敷地面積:988.58m2
建築面積:232.77m2
延床面積:279.92m2
階数:地下1階 地上2階
構造:RC造
設計期間 2007年5月~2008年4月
工事期間 2008年5月~2009年7月
principal use:weekend house
site area:988.58m2
building area:232.77m2
total floor area:279.92m2
number of stories:2 story + 1 basement
structure:reinforced concrete structure
design:2007.5 - 2008.4
construction:2008.5 - 2009.7
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
ミンクのような短毛種の動物を思わせる、特別に研磨された900×900の無垢なアルミプレート。これにカツデンアーキテックの保有する高精度な加工機を使って4本の切り込みを入れ、その後曲げる。このように最小限の操作によって成立するこのテーブルは、逆に最大限、資源とエネルギーを効率良く使用していることになります。
素材の風合いとそれを活かす極めてシンプルな形態には、このような環境意識を
背景とした倫理性のラインが通っています。まるで玩具のような消費系デザインではなく、反対に無意味に高価な様式主義デザインでもないところ。
リラックスしながらも自己抑制のきいた「これからの大人」のための、新しく優美なデザインの在り方を求めました。
data:
主要用途:テーブル
材料:アルミニウム
製作販売:KATZDEN ARCHITEC
設計期間:2008年2月~2009年3月
principal use:table
material:Aluminium
produce, sale:KATZDEN ARCHITEC
design:2008.2 - 2009.3
photo credit:
Kenshu Shintsubo / 新津保 健秀
都内北部の穏やかな丘陵地上の住宅地内に計画された、夫婦二人の為の住居。
丘の頂部近くの旗竿型の敷地で、地盤は竿から旗へと緩く上っていく。周囲を隣家に囲い込まれ、旗竿地特有の薄暗さや圧迫感もあったが、それよりも少し街から奥まった外部に晒されていない深部といった場の性格が意識された。この様な情況では、余地の少ない水平方向へ向かうより、地勢的にも垂直方向への展開が相応しい。それは森の深部で、他の木々に囲まれた樹木がとる指向性と同様の理由による。
通常の建築で用いられる「直交座標系」の幾何学は一定方向への反復展開性に優れているが、前述のようにここではその必要はない。むしろ、周辺との微妙で緊密なバランスを拾うことのできる幾何学の方が望ましく、中心とそこからの距離と角度によって位置を記述する「極座標系」を、建築を規定する幾何学として用いる事にした(例えば、2次元のボロノイ分割図を思い浮かべてもらいたい)。
具体的には、51mm厚のLVLからなる門型の「柱ー梁」構造を、11.25°(360°/32flame)の角度を保って回転複製することで建築は構成される。各フレームは各々隣よりも55mm程高いので、一周すると1.7mの高低差が生まれることになる。これは滑らかなHP曲面の屋上テラスへの出入口になるのと同時に、東側に一部だけ開かれた空と、隣家の緑を借景として取り込むハイサイドライトとなっている。
また、極座標の中心には32本のLVL柱が集中し、直径約1.1mの大きな大黒柱が形成される。伝統的な田の字型平面の民家と同様に室内はこの大黒柱で4つに分節されるが、極座標に基づいているので分節は90°に限られない。また、中心を平面的に偏芯した位置に設定する事で外周線からの距離に差が生じ、回転角度は一定なので、中心からより離れた外側の柱は間隔が大きく、近い柱はより密になり、螺旋状に上昇する架構によって生じる天井高の変化に加えて、室内に性格が与えられる。例えば、より柱間が小さく天井の低い親密な暗がりは眠る場所に、より大きな柱間で大開口も取れる明るく天井も高い領域は食事の場に相応しい、といった具合に。床高もまた、大黒柱による分節に沿ってスキップしているが、これは敷地の元の地形によっている。
完成した住居は厳密な幾何学による建築ではあるが、どこか人工物とは言いきれない風情を持つことになった。大黒柱に背をつけてその足元に座り、上を仰ぐと放射状に伸びる梁が枝を広げた大きな樹木のように思えてくる。
樹幹の様な大黒柱の周囲には、安心して暮らしていく「住む場所」が広がっている。「住宅」と名付けられた透明な「空間」とは、なにか異なる質がここにはある。
「空間」の中心には社会的な「意味」があるが、「場所」の中心には「存在」がある、という事なのだろう。
ー
「GA houses 114」 2010年1月/A.D.A.EDITA Tokyo
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:162.69m2
建築面積:78.76m2
延床面積:80.45m2
階数:地上2階
構造:木造
設計期間 2008年7月~2009年3月
工事期間 2009年4月~2009年10月
principal use:private residence
site area:162.69m2
building area:78.76m2
total floor area:80.45m2
number of stories:2 story
structure:wood
design:2008.7 - 2009.3
construction:2009.4 - 2009.10
photo credit:
Ken'ichi Suzuki / 鈴木 研一
Ryota Atarashi / 新 良太
気候の中の建築
敷地は、温暖湿潤気候帯から熱帯雨林気候帯へと、近い将来、移ろうとしている関東平野中央やや西寄り、東京都内の低層高密な住宅地内にある。
求めたのは「住宅」というよりも「居住」を誘発する永続的な「地形」。
そして、この地形を予定調和に陥らないよう発見的に「住居」へと整えていく、そのような意識で計画を行った。
高い居住のポテンシャルを有した地形を求める、と言うからには、建築は抽象的な形態論に留まらない。
地形とは岩石や土壌という具体的な物質が、地域毎に異なる気象の中で長い年月の間応答してきた結果であるからである。
素材と気象の最適な応答関係を見出し建築化する。
これは現代建築の文脈が無視してきた気象や素材、経年変化の諸問題をデザインファクタへと再び取り込み、建築的恵みへと転換しようとする試みでもある。
「永続的に存在する地形」を実現する構造・素材の探求から始まった。
実際の地形のように構造と仕上げが一致する既存技術としては「RC打放」があるが「永続性」という点では問題がある。
雨水による壁表面からのアルカリ分の融出はその寿命を極端に短くしているし、化粧合板型枠による平滑な表面は竣工時は良いが、風雨に晒されることで数年後には悲しい歳の取り方をしてしまう。
そこで新たに型枠構法を開発し、約@500mmでh=18mmの水切りを持つ彫の深いRC打放を実現する事で、アルカリ分の融出や汚垂の問題を解決した。
更に型枠は化粧合板の代わりに針葉樹合板を用い、木目を壁面に転写する事で肌理を粗く仕上げ、ジーンズのヨレのように経年変化を美的な要素へと転換した。
上記の構法で作られるRCの量塊を敷地を斜めにスラッシュするように配置する。
これによって発生する2つの外部空間は、道に面した北側をパーキングに使う「外庭」、南側を母屋と隣家に守られた風の穏やかな日だまりの「内庭」へと性格づけられる。
「内庭」はプライバシーもセキュリティーも確保されるので、建築は南側の明るい庭と「大きな空」へと開き、これを取り込む事ができる。
また立体的にも矩形からずれたジオメトリは既成の空間型に収まらず、各所に「闇」が生み出される事と合わせて、空間に奥行きと流動性をもたらしている。
内部には、大きな空の下の暮らしがある。
外部は、晴天時には外壁の凹凸が強い陰影を生み出し、雲天時には湿度をたたえて黒々とした岩山のようになる。
そして、雨の日には水滴のレースをまとう。
「空模様」が変化するのに合わせて、建築もその様相を変えていく。
気候と呼応する現代建築が生まれたのである。
ー
「住宅特集」 2008年11月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:108.3m2
建築面積:53.1m2
延床面積:79.5m2
階数:地上2階
構造:RC造
設計期間 2007年1月~2007年7月
工事期間 2007年8月~2008年7月
principal use:private residence
site area:108.3m2
building area:53.1m2
total floor area:79.5m2
number of stories:2 story
structure:reinforced concrete
design:2007.1 - 2007.7
construction:2007.8 - 2008.7
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
地球を鋳型に、建築を組み上げる。
我々が行ったデザイン上の操作は端的に言うとそういうことだ。
具体的には以下のプロセスを経る。
1.メキシコの地表に穴を掘る。
2.そこに配筋を行いコンクリートを流し込む。
3.固化した後、コンクリートをクレーンアップし、他のピースと組み合わせ美術館の構造体とする。
4.残された穴はそのまま半独立の展示室となる。
earth mold
concrete(地球型枠)工法とでも呼ぶべきこの施工プロセスは、通常発生する大量の型枠廃材を生み出さないため、森林資源が保全されるグリーンな工法である。
構造体の片面に付着した敷地の「土」はその痕跡であり、サイトスペシフィックな空間性を美術館に付与してもいる。
また、構造体のコンクリートのフォルムと展示室の空間のフォルムは正確に一致することになる。
つまり、建築を作り出したプロセスがそのまま美術館の構成をも決定しているのである。
contemporary
artの本質とは、留まる事のない現在性の生成のプロセスである、としたならば、生成のプロセスがそのまま建築の在り様となっているこの美術館と展示されるアートの間には、ある共鳴が起こることになるだろう。
この共鳴の音質こそが我々のデザインの対象であり、最大の関心事となっている。
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「デザインマイアミ/バーゼル」出展 バーゼル, スイス
data:
主要用途:現代美術館
敷地面積:4746m2
建築面積:3173m2
階数:地下1階 地上1階
構造:RC造(サイトPC)
principal use:Contemporary Art Museum
site area:4746m2
building area:3173m2
number of stories:1 story + 1 basement
structure:reinforced concrete(site PC)
photo credit:
Sadao Hotta / 堀田 貞雄
東京の住宅地に計画された夫婦二人のための住居兼オフィス。
都内でも有数の地価の高いエリアに敷地はあるが、他の都心部の住宅地の例に漏れず住宅が雑然と密集した状況から、その価格ほどに住環境として良質であるとは言い切れない。
ここに更にもう一つ住宅を押し込むことより、良好な住環境を生み出すことの方が、まず先決であるように感じられた。
思い出したのは、ミースとフィリップ・ジョンソンによる二つの著名な「ガラスの家」である。室内を裸で歩きたくもなるような、その自由さと開放感は、ガラスそのものの透明性にもよるが、なにより建築を取り巻く気持ちのよい周辺環境=「森」によるところが大きい。
「森」がすでに気持ちのよい住環境を形成しているのである。だから、建築はごく薄く透明な皮膜で内外の空気を切り分けるだけでいい。
居住に適した環境さえあれば、「住宅」そのものさえ必要がなくなっていくことを明快に示している。
求めたのは、この「森」の代わりとなる存在である。
具体的には、居住に適した環境を生み出すため「の」の字型にくるりと巻かれた2枚の大きな帯状の面を敷地内に設置することで、良質な住環境を発生させる事を試みたのである。
それぞれ高さ7.5mと5mの木漏れ日のように光を透過する、厚さ3mmのステンレス製のレース状の、自立する壁面である。
伊勢型紙の伝統文様である桜のパターンに沿ってパンチングされている。
このように抽象化された桜の森を分け入ると、「気持ち良く住まえる「予感」のする環境」が現れる。
ここには「住宅」という「構え」は、もはや見当たらない。ここは純粋な「住環境」であって、記号化されたいわゆる「住宅」ではないし、ましてや「住宅地」でもない。
都市の届かない 明るい深部 が、東京に生みだされたのである。
ー
「GA Houses 99」 MAY/2007-A.D.A.EDITA Tokyo
data:
主要用途:個人住宅 一部オフィス
敷地面積:131.41m2
建築面積:75.43m2
延床面積:279.58m2
階数:地下1階 地上3階
構造:RC造(一部鉄骨造)
自立壁:ステンレスパネル造
設計期間 2005年6月~2005年12月
工事期間 2006年1月~2006年12月
principal use:private residence, office
site area:131.41m2
building area:75.43m2
total floor area:279.58m2
number of stories:3 story + 1 basement
structure:reinforced concrete structure, partly steel frame
and stainless panel
design:2005.6 - 2005.12
construction:2006.1 - 2006.12
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
kenshu Shintsubo / 新津保 建秀
「質」の対話
目黒通りから一本奥に入った、昭和初期頃からの閑静な屋敷街の一角が敷地である。
都心部には珍しく大きな区画に邸宅が建ち並ぶ地域で、この計画もそれなりのスケールを持つことになった。「おおきな家」の設計である。
建築に関わる「大きさ」には2種類ある。
一つは「空間の大きさ(m3)」で、もう一方は「質量の大きさ(kg)」である。
「空間の大きさ」は主に「合理性」や「自由」の感覚と直結している。質量を小さくその代わりに空間を大きく取っていけば、それだけその建築が目的用途に使用できる度合いが大きくなるのだから「合理的」。「自由」の感覚は重く動かすことのできない壁や柱等の「質量」が少ない、つまり「制約」が少ないことから感じられるのだろう。特に近代以降に主題になった「空間の大きさ」はやはり魅力的だ。
他方「質量の大きさ」は「安心感」や「親密さ」の感覚と近いところにある。たとえば初期ロマネスクの厚い壁に包まれた小さな空間は、説明を待たず、落ちつき安らぐ。触れたくなるし、その壁のそばにテーブルを置いて本を読み一日を過ごしたくなったりもする。問答無用に惚れてしまう「対象」となることができるのが「質量」である。
昨今の建築事情は「空間の大きさ」を主題にせざるを得なかった側面がある。絶対的に都市には地面が足りていないのだし、「質量」にはキログラム当りの値段がついているのだし。。このところ「質量の大きさ」が表舞台に上がり難かったのはこうした事情による。しかし「空間」一辺倒で進んできた昨今のモダンハウスに決定的に不足してきたのは前述の「質量」の持つ魅力ではなかったのか。建築、特に「住宅」には、本来この二つの「大きさ」が同時に実現している必要があるのだろう。
今回は幸いその二つの「大きさ」が同時に実現できる機会であった。建築全体は<空間量/質量(m3/kg)>が最大化される「ロ」の字型のエンジニアウッドでできた「大きな空間」のパートと、<空間量/質量(m3/kg)>が小さく抑えられた「L」字型の鉄筋コンクリートによる「大きな質量」のパートで構成される。動線はその2種類の「大きさ」に絡まるように配され、そこを通過する人は異なる<空間量/質量(m3/kg)>の配列のパターンをデザインとして経験することになる。
「大きな質量」はセキュリティーとプライバシーが必要な諸室を内包したL字型のコンクリート塊である。化粧型枠の代わりに大きな木目の現れたラーチ合板を用い、ピーコンのでない工法を開発することで、ラフでタフな土木構造物のような質感と重量感が獲得された。従来の平滑な表面とパネル割りの4隅にピーコン痕のあるいわゆる「打ち放し仕上げ」はすでに壁紙の様に記号化されてしまっているが、今回はコンクリート本来の表情=「肌理」を取り戻すことで、その「大きな質量」は親密な「対象」となることができた。
「大きな空間」は「道ばた」のような半外部的なスケールを持ったスペースである。敷地周辺の庭園を借景として利用できるように、前面道路から2m程持ち上げられ敷地に直交する前後二本の道路を繋ぐように配された、ロの字型のLVL連続フレームによるチューブ状の大空間。柱や梁を構成するLVLは38×286mmの断面で長さ6m近いフィン状のプロポーションである。このように<空間量/質量(m3/kg)>が最大化できたのは、水平力のすべてをL字型のコンクリート部分に負担させているからである。こうして実現された「大きな空間」はLVLの特徴である大きな杢目や、その他鉄部や床石などの意図的に強められた肌理によって、スケール的に落ち着けられた。面白いことに2種類の大きさはともに「肌理」によってコントロール可能になったのである。
このように完成した「おおきな家」は、古い屋敷街の中でその抽象的な立方形状によって新しく異彩を放っているようであり、また同時に、もっとずっと以前からそこにあったようにも見える。
「懐かしく馴染んでいて、しかも新しい」
これは二つの「大きさ」が同居することで獲得された特質なのかもしれない。
ー
「住宅特集」 2006年8月/新建築社
data:
主要用途:個人住宅
敷地面積:177.27m2
建築面積:106.33m2
延床面積:259.72m2
階数:地下1階 地上2階
構造:RC造(一部木造)
設計期間 2004年10月~2005年6月
工事期間 2005年8月~2006年5月
principal use:private residence
site area:177.27m2
building area:106.33m2
total floor area:259.72m2
number of stories:2 story + 1 basement
structure:reinforced concrete. partly wood frame
design:2004.10 - 2005.6
construction:2005.8 - 2006.5
photo credit:
Ryota Atarashi / 新 良太
Satoshi Asakawa / 淺川 敏
葉山町の海岸沿いに計画中の貸別荘のプロジェクト。
敷地正面には太平洋が広がり、晴天時には水平線の向こうに富士山が遠望される。背後には葉山らしく三浦半島の里山が控えていて、敷地は地勢的にちょうど海と山の境界上に位置している。そのような豊かな自然環境の中で、通常設計に使用される-デカルト座標系-の幾何学が持つ普遍的
/ 都市的な匂いが気になった。
そこで、代替の基準となる幾何学として、中心とそこからの距離と角度によって空間を規定する-極座標系-を選択した。俯瞰的な視点によらず各存在間の関係性で位置を記述しあう極座標系はより自然な幾何学であり、今回の敷地環境の中で「スワリが良い」と感じられたのである。
外接しあう異なる半径を持つ3種類の円を反復し、一見ランダムな構成を持ちながらも構造的
/ 存在的に合理的な基準線の体系ができあがった。
その基準線に沿って、厚さ6mmの型抜き鉄板でできたブーメラン型の「柱=梁」材を回転複製していくことで樹状のストラクチャーを作り出し、それらを相互に連結して連続するアーチ状の強固な架構のシステムを形成する。これを3層積み重ね、必要面積を確保する程度に周囲を切り落として建築を整えた。
6mmの薄さにまで抽象化/単純化された極薄のゴシック建築といった様相である。それはまた結晶化し積み重なった森のようでもある。
構造的/存在的に合理的な構築物は限り無く自然に近づいていくのかもしれない。
「自然と建築の混交」
そういえば、それはゴシックの理想でもあった。
ー
「住宅特集」2012年4月/新建築社
data:
主要用途:ゲストハウス
敷地面積:456.84m2
建築面積:118.80m2
延床面積:496.82m2
階数:地下1階 地上3階
構造:鉄骨造 + 鉄筋コンクリート造
principal use:guest house
site area:456.84m2
building area:118.80m2
total floor area:496.82m2
number of stories:3 story + 1 basement
structure:stainless frame + reinforced concrete
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
4連HPシェルユニットの薄肉チューブ
「とりりん」は惣菜と精肉を販売する店鋪である。建築は最初の約5年間のみ初期用途のために使用されるが、その後は他の用途に転用されることになっている。より大きな旧店鋪で使用していた厨房器機群を引き続き使用するため、最大限効率的に床面積を確保することが求められた。敷地は北向きで鰻の寝床状に細長く、暗く凹んだ印象であった。建築費は1,500万円。
われわれが提案したのは、軽量鉄骨を主材とする用途フリーの薄いチューブ状の建築である。角パイプ(100×50×3.2m)弱軸使いによる薄い見付厚の門型フレームをつくり、この上辺をグラデーショナルに変化させながら反復することでHP曲面シェルの屋根面を持つユニットを形成する。これを4ユニット並置させて、ユニット切り替わり部に採光スリットとトラスを持つ、強固で明るい薄いチューブ状の建築が完成した。薄い構造厚は有効床面積を最大化し、逆に建築全体の形状として強固であるため鉄骨量は最小化された。また、ユニット化によってディテールが反復されるため、工期も短縮され(実質工期は2ヵ月)、工費の低減が実現された。
屋根側のHP曲面で拾われた自然光はスリットから室内に取り込まれ、天井側のHP曲面のよって柔らかく室内全体に拡散される。室内仕上げは清掃性と光の効率的な反射を意図し、VP-N95の全ツヤ塗装としている。
用途フリーということもあり、われわれは店鋪の設計を行ったというよりも、明るく気持ちのよい「環境の質」をデザインしたのだと考えている。
ー
「新建築」 2004年11月/新建築社
data:
主要用途:精肉・総菜店舗
敷地面積:122.31m2
建築面積:97.10m2
延床面積:86.13m2
階数:地上1階
構造:鉄骨造
設計期間:2004年4月~2004年7月
工事期間:2004年8月 ~2004年9月
principal use:shop
site area:122.31m2
building area:97.10m2
total floor area:86.13m2
number of stories:1 story
structure:steel frame
design:2004.4 - 2004.7
construction:2004.8 - 2004.9
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
なんでもない場所
屋上や河原が好きである。
考え事をしたり、アイディアを錬ったり、特別な誰かとゆっくり話をしたりするのは大抵そんな場所だ。そんな場所には似たような人たちがなんとなく集まる。空が広いのがいいのだろうか。それとも風景が横長で風が吹き抜けるのがいいのだろうか。もちろんそれもある。しかし、いちばんの理由は、そこが「なんでも無い場所」だからなのだろう。
原理的に都市は、「教室」や「オフィス」や「休息室」にいたるまで、すべて一定の機能がラベリングされた機能空間の高密度集積体である。それはたいへん効率的で分かり易くはあっても、同時にそのスキのなさは時として息苦しさを感じさせもする。その意味でわれわれ都市生活者は、多かれ少なかれ、都心部にいるほどに、都市の「外」を求めているのであろう。しかし当然、都心部であればあるほど、「なんでも無い場所」は得難い。
クリエイションの「場」
このプロジェクトでは、そんな「なんでも無い場所」を東京・渋谷の真中に出現させる事を目論んだ。具体的な計画は、渋谷川を見下ろす築40年超の鉄筋コンクリート造校舎の屋上の倉庫を改修して、美容師をはじめさまざまな分野の若いクリエイターが集まるサロン/アートアーカイブをつくることである。クライアントは住田美容専門学校という、美容師を養成する2年制の専門学校である。
当然、実現すべきは「クリエイターサロン」とラベルの貼られた「機能空間」ではない。機能は集まったクリエイターたちによって、その都度発見されるべきである。むしろこの場所の持つ、屋上としての性格や渋谷川の土手/河原としての性格を拡大して、前もって名付けられた機能を持たない、自由なクリエイションの「場」を作り出そうと考えた。
屋上→ランドスケープ
実際のリノベーションの作業から言うと、操作対象である旧ビルの屋上は、不都合な点も多い。
たとえば、倉庫やクーリングタワーや給水塔や使われていない煙突や絡まりあう設備配管類などの、本来、来訪者から隠し保護しなければならないモノが無秩序に大量に置かれている。また、40年余りを経過し老化した防水層も、今のところ健康ではあるが、直接多くの人間が歩行するには頼りがない。直線も直角も出ていない東京オリンピック以前の鉄筋コンクリート造建築物の施工精度の問題もある。
これらの問題群を解決するために、2"×6"のウェスタンレッドシダーでできたタフな木製の面で屋上全体をカバーする事にした。木製の平面は既存の設備類や老化した防水層を覆い保護しながら、様々な屋上の突出物に沿って、折り曲げられ、切り込みを入れられ、ラフに屋上全体の形にフィットさせられる。
その結果屋上は、ポリゴン分割された牧場のような、一枚の変化のある地続きのランドスケープに置き換えられた。それは「の」の字型にくるりと回転しながら、一階高分登っていく一枚の連続する地表面である。不整形な室内部分は「空間」と言うより「谷間」あるいは「洞穴」と言った方が近い。
結果的にわれわれは屋上にランドスケープを設計したのである。
そこは、都心部に唯一残された、名付けられることのない、可能性に満ちた「なんでも無い場所」だ。渋谷の上空に再現された「屋上の河原」に寝そべって、若きクリエイターは、未来を想像するのである。
ー
「新建築」 2004年8月/新建築社
data:
主要用途:サロン 広告塔
延床面積:75.72m2
構造:鉄骨造
設計期間:2004年1月~2004年2月
工事期間:2004年3月~2004年4月
principal use:salon
total floor area:75.72m2
structure:steel frame
design:2004.1 - 2004.2
construction:2004.3 - 2004.4
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
ライバルは自動車である。
クライアントの趣味である陶芸製作のアトリエ兼ギャラリー建設のための予算として提示されたのは、彼がビジネス用に購入する予定だったトヨタカローラ1台分の予算=150万円。
建築予算としてみれば、無きに等しい金額ではあるが、単に物品を購入する金額であると考えれば大金である。少なくとも、エアコン、カーナビ、パワーウィンドウ付きの豪華な「動く個室」が手に入るだけのチカラを持った「お金」だ。この事実に比較して現在、建築は果たして正しく効率良くその品質のために「お金」を使えているのだろうか。高度に専門分化され発展を続けてきた社会制度上の建築システムは、今でもオブジェとして美しく合理的な建築を生み出しているのだろうか。
そんな疑問を常々持っていた我々にとって、このプロジェクトはその金額の少なさ故に大変魅力的なものになった。
不透明で分かりにくい「建築のお金」を徹底的に把握しなおし「費用対効果で自動車を上回ること」。
建築を一旦オブジェのレベルにまで引き降ろし「オブジェとして最も合理的でリーズナブルなあり方を求めること」。
そんなことを考えて「150万円の自動車に負けない、150万円の建築を作る」を合い言葉に計画はスタートした。
ー
「SD-Review」 2003年12月/鹿島出版
data:
主要用途:陶芸製作のアトリエ
敷地面積:502.86m2
建築面積:22.30m2
延床面積:16.70m2
階数:地上1階
構造:木製パネル構造
設計期間:2003年1月~2003年4月
工事期間:2003年3月~2003年9月
principal use:atelier for ceramist
site area:502.86m2
building area:22.30m2
total floor area:16.70m2
number of stories:1 story
structure:wood panel
design:2003.1 - 2003.4
construction:2003.3 - 2003.9
photo credit:
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO