Hill House


海辺からおだやかに登っていく丘、その中腹に敷地はある。
南を見晴らすと大洋のかなたに水平線、西には半島の連なり、北側は里山の緑がとり囲み、東脇には樹齢200年は優に越えるだろう広葉樹が敷地半ばを覆うようにして樹冠を広げている。
四方それぞれに特徴ある景観が広がり、通常のように建築に「表/裏」を設定することは相応しくない。むしろ「四方全てが表」となるような形式を求めることになった。
梁成 2200mmの大断面集成材を完全点対称な「田の字型」に組んだ架構体として二つ用意する。これらを各辺中点の梁を天然木合わせ柱で挟み込み、梁成と同じ 2200mmの隙間をもって空中に掲げあげることで、空間のコーナーが完全に外環境へと開放された矢倉状の構造体が形成される。
そして、線材というよりは既に壁体と呼ぶべき梁成2200mmの架構体は、ある種のスペースフレームとなって空間を内包しているが、この空間を上層に加えるか、あるいは下層に足すのかは任意である。つまり、縦/横/高さ、それぞれ2ディジットを持つ最小限の3次元行列が成立することになる。これを生かして、田の字の各升のスラブを梁の上端または下端、に設定し、天井や視線の高さ、囲まれ方や陰影の具合などを操作することで、既存の豊かな自然環境を居心地の良い住環境へと変性させることを意図した。
しかし、この空間構成の周辺環境への応答の自由度とは別に、構築物としての建築が完全にシンメトリーな秩序からなっていることに僕の関心はある。さまざまに移ろいゆく自然の流れの中にコトンと置かれた自律的な秩序。竣工し、世界の存在の一部となった後、その周りに発生するだろう環境の波や渦の具合がデザインの対象であるような気がしている。


「GA houses 141」 2015年3月/A.D.A.EDITA Tokyo