Harmonica Yokocho Mitaka / ハモニカ横丁ミタカ

意図の埒内/埒外、その配分
端的に言ってしまえば、世界をある「意図」の元に整理していくことが建築デザインの本質だ。無秩序は取り除かれ、暗がりは明るく照らされて、ル・コルビュジエの言うところの「輝く都市」が世界を満たしていく訳だけれど、それがある臨界に達すると、今度は反転して、人は「意図の埒外」を求めはじめるようである。
そんな昨今の状況から、現在に残された意図の埒外の代表として戦後に自然発生しこれまで存続してきた「闇市」は、多くの大学研究室が調査対象にするなど、その価値が再評価されつつある。しかし、最近では下北沢の闇市が撤去されてしまったように、その将来は決して安泰ではない。
今回は、そんな闇市の代表的な存在でもある吉祥寺ハモニカ横丁を、レトロスペクティブな感傷に陥るのではなく、その意義を未来へと繋いでいくことを目的に起こされたプロジェクトである。「意図の埒外を設計する」、つまり「デザインしない/をデザインする」という、そもそも語義矛盾のようなことが求められた。具体的には三鷹にある元パチンコ店舗だったテナントビルの一階を、7店舗程の飲食店群からなる「新しい闇市」に変換するという試みである。
そこで、我々がとった方法は、以前「佐賀町アーカイブス」で試みた「トムとジェリー」手法の発展形である。各テナント店舗が、確かなデザイン意図によって仕上げられた「トムの空間」を作り出すと、その裏面に下地が露になった意図外の「ジェリーの居場所」が生まれてしまうという仕組みだ。佐賀町~と異なるのは、トム/ジェリーの関係が単一ではなく複数となり、その関係が多様になったことだろう。関係が複雑になることで、より一層デザインの一意性は弱められ、ジェリーの居場所は更に意図の束縛から自由になっていく。
人は純粋な「輝く都市」だけでは息がつけないし、全くの「闇市」だけでも生きてはいけない。健全な暮らしには、その明-暗の「配分」が重要なのだろう。意図の世界と対となって、意図の埒外の世界が発生するこの手法は、ある種、これからの都市を御していく為のモデルとならないかと考えている。


「新建築」 2013年12月/新建築社