Gothic on the Shore / 海辺のゴシック


葉山町の海岸沿いに計画中の貸別荘のプロジェクト。
敷地正面には太平洋が広がり、晴天時には水平線の向こうに富士山が遠望される。背後には葉山らしく三浦半島の里山が控えていて、敷地は地勢的にちょうど海と山の境界上に位置している。そのような豊かな自然環境の中で、通常設計に使用される-デカルト座標系-の幾何学が持つ普遍的 / 都市的な匂いが気になった。
そこで、代替の基準となる幾何学として、中心とそこからの距離と角度によって空間を規定する-極座標系-を選択した。俯瞰的な視点によらず各存在間の関係性で位置を記述しあう極座標系はより自然な幾何学であり、今回の敷地環境の中で「スワリが良い」と感じられたのである。
外接しあう異なる半径を持つ3種類の円を反復し、一見ランダムな構成を持ちながらも構造的 / 存在的に合理的な基準線の体系ができあがった。
その基準線に沿って、厚さ6mmの型抜き鉄板でできたブーメラン型の「柱=梁」材を回転複製していくことで樹状のストラクチャーを作り出し、それらを相互に連結して連続するアーチ状の強固な架構のシステムを形成する。これを3層積み重ね、必要面積を確保する程度に周囲を切り落として建築を整えた。
6mmの薄さにまで抽象化/単純化された極薄のゴシック建築といった様相である。それはまた結晶化し積み重なった森のようでもある。
構造的/存在的に合理的な構築物は限り無く自然に近づいていくのかもしれない。
「自然と建築の混交」
そういえば、それはゴシックの理想でもあった。


「住宅特集」2012年4月/新建築社